最終回後



ベッドの上に勢いよく飛び込んで仰向けになり、ため息をつく。
風呂上がりの体はまだ熱を持っていて、シーツがいつもより冷たく感じられる。
目を閉じて思い出すのは、エルリック兄弟達と共に立ち向かったホムンクルスのこと。
ホムンクルスの馬鹿げた野望を止めるために戦った時間はわずかだというのに、何年にも感じられる長く濃い戦いだった。
親友を亡くし、部下を奪われ、副官を目の前で傷付けられ、あげくの果てに私は失明をし、短期間のうちに今までにない絶望を何度も味わった。
鋼のがとどめを刺してホムンクルスとの戦いが無事に終わり、アルフォンスの体がようやくこちらの世界へ戻ってきたことを喜びながらも、暗闇しか映さない目は何も見えなかった。
失明という障害を乗り越えてこれから何をすべきか考えていたのだが、幸運なことに、ドクターマルコーが持っていた賢者の石のおかげで、私の視力は無事に回復した。
今は、賢者の石と引き換えにドクターマルコーと約束をしたイシュヴァール政策に尽力するために部下達と頭を寄せて話し合っている。
それから、ホムンクルスとの戦いで破壊した司令部の修理やクーデターの処理もあり、以前にも増して私や部下は忙しく、最近は司令部にいる時間の方が多い。
こうして自宅の風呂に入り、自分の寝室のベッドに寝転がるのも久しぶりだ。
「大佐、お風呂ありがとうございました」
控え目な声と共に、パジャマ姿のリザが寝室に入ってきた。
「また烏の行水だな。久しぶりなんだから、もっとゆっくりしてもいいのに」
「上官の家のお風呂でゆっくりなんてできません」
「相変わらず真面目だな…」
リザがベッドに腰掛けるのと同時に、彼女の腕を強引に引っ張って、胸に抱き寄せる。
リザが倒れ込んだことによりベッドがぎしりと軋んだ。
まだ少し濡れている髪に鼻を埋め、リザの体を腕の中にしっかりと収めると気分が落ち着いて、ほうっとため息をつく。
苦難を乗り越えて立ち上がったかと思えば、また地の底に落とされるような出来事が続いた中、私が私らしくいられたのはリザ・ホークアイのおかげだ。
リザは私をいつも支えてくれて、正しい人の在り方を導き、暗闇しか見えず絶望の淵にいた私の目の代わりになってくれた。
リザは最後の決戦では重症と言えるほどひどい傷を負っていたというのに、彼女は泣き言などひとつも言わず私を励ましてくれた。
「…リザ」
「何ですか?」
「ありがとう」
「突然どうしたんですか」
リザは私を見上げて不思議そうに首を傾げた。
思い返せば、ホムンクルス達の手中に落ちてから、リザには辛い思いをさせてばかりだった。
視力が戻って一番最初にリザのいる病院へ駆け付いた時、彼女は「見えるんですか?」と目が見えることを何度も必死に尋ねて確かめたあと、私に勢いよく抱き着いて、堰を切ったようにぼろぼろと涙を流した。
守れなくて申し訳ありませんでした。
リザは何度もそう繰り返して泣いた。
私が一時的に視力を失ったのはリザのせいではないのに、私の護衛官である彼女は自分の怪我は二の次にずっと自分を責めていたらしい。
今もまだ護衛の勤めを果たせなかったことを気に病んでいるらしく、リザが私の家にいる理由はそこにある。
もちろん、リザが私の恋人だから一緒にいるという理由もあるのだが、彼女が私の家に泊まり込むのは「夜は怖いでしょうから私が一緒にいます」という、彼女のちょっとずれた考えからなのだ。
「暗いのなんて怖くないよ」と言っても、リザは「遠慮しないでください」と譲らない。
一時的に暗闇しか見えなくなった私を気遣って、日が落ちて暗くなると、リザは決して私の側から離れようとしない。
司令部にいる時も常に近くにいて、自宅に帰れる日はこうしてリザは私の家に泊まるのだ。
ちなみにリザが着ているパジャマは自前で、そして彼女の生活用品がいくつか私の家に置いてあり、同居しているような状態だ。
もう視力は戻ってきたのだし、別に暗闇など怖くはないのだが、リザがどうしても側にいたいというので好きにさせている。
リザが側にいてくれるのはもちろん嬉しいのだが、彼女の世話焼きには少しだけ困っていた。
私が両手を怪我している間、リザは家事をしてくれるだけでなく、何と一緒に風呂に入ろうと言い出し、実際に私の髪と体を洗ってくれたのだ。
普段ならば私が一緒に入ろうと誘うと嫌がるくせに、いざ風呂に入るとリザは恥ずかしげもなく私の髪と体を洗ってくれた。
リザが恥ずかしがることなく私と一緒に風呂に入ったのは、ただ私の手の怪我が心配なだけで、性的なことがまったく頭になく下心もないからだ。
私はというと、真面目に体を洗ってくれるリザの何も纏わない白い体を見れば、当然のように性的なことを連想してしまい、理性を保つのに大変だった。
リザは首に大怪我をしているため、それが治るまでは激しい運動ができない。
背中に何か柔らかいものが当たっても、リザの白い手がタオルを持って優しく肌を擦るのを見ても、私は彼女に何もできないのだ。
「…大佐」
「ん?」
リザは仰向けに寝転がる私の体の上に乗り上がり、じっと私の顔を見つめた。
パジャマ越しに伝わるリザの体温と体の柔らかさ。
もう手の怪我は治ったために風呂での地獄からは解放されたが、一緒に眠る時はまだ辛い。
どうしてリザは私が何もできない時に積極的になるのだろうか。
「大佐」
私のことを呼ぶリザの声が甘い気がする。
リザはもう眠いのだろうか。
いつものように唇に軽くおやすみのキスをして、リザの頭を撫でた。
「…大佐…」
また名前を呼ばれる。
まだ物足りない。
いつになく甘く優しいリザの声は、そう言っているように聞こえた。
「リザ?」
どうしたのかと尋ねようと思った時、リザの手が私の両頬をそっと挟んで、薄く開いた唇を押し当ててきた。
突然のことに驚き、目を丸くしたまま動けないでいて、リザの好きなようにさせてしまう。
「…ん…」
リザは口付けが上手ではないが、拙くも私の舌を絡めとって、優しく吸う。
リザの方からこんなに情熱的な口付けをされるのはいつぶりだろうか。
しかし、リザとの口付けを味わうよりも、私は恥ずかしがりやな彼女の大胆な行動に驚いてしまっていた。
「…リザ…」
リザが唇を離すと唾液の糸が私達を繋いで、彼女はそれを照れたように指で切った。
「…急にどうしたんだ?」
「…私…もう平気です」
「え?」
「…包帯はずいぶん前に取れましたし…首の怪我、もう大丈夫ですから…」
リザはそう言うと黙ってしまった。
リザの頬が林檎のように赤いのが薄暗い中でもよく分かる。
「…それって……いいの?」
あまりに突然の出来事に間抜けな言葉しか出てこなかったが、リザは無言でこくりと頷いた。
体の上に乗せていたリザを抱いたままくるりと回転して立場を逆転し、彼女を上からまじまじと見る。
リザが言いたいことはよく分かった。
まさかリザの方から行為を誘ってくるとは思わず、私はまだ少しだけ事態を飲み込めずにいた。
しかし、とてつもなく嬉しい。
「リザ…本当に平気か?」
「…平気です…」
リザはやはり自分から言い出したのが恥ずかしいのか、わずかに目が潤んでいた。
何て可愛らしいのだろうとため息をつく。
「本当に?」
「…はい…」
大丈夫かと問い掛けながらも、もう止まることはできないと自覚しながら、リザの顔中に口付ける。
その度にリザがくすぐったさそうに肩をすくめる様子が愛らしくてしかたない。
セックスだけが愛情を伝える方法ではないけれど、もうずっとできていなかったために、単純に嬉しかった。
「…リザ…」
唾液にまみれた唇にもう一度口付ける。
この時、口付けに夢中で、いつもなら背中に回されるはずのリザの手が不穏な動きをしていることに、私はまったく気付かなかった。
リザの手は私の背中ではなく胸を伝って腹へ、腹から下へ、そして…。
いきなり掴んだ。
「えっ!?」
「え?」
あまりに信じられないことが起きて、リザの体から飛び上がるようにして離れた。
幸いうしろには倒れ込まなかったが、シーツの上に尻餅をついてしまう。
目を真ん丸くしながら、つい先ほどの出来事を思い出してみる。
掴まれた。
あのリザに。
「…な、何っ!?どうした!?」
「…何って…言わなくちゃ駄目ですか?」
リザが恥ずかしそうに俯いた。
確かに恥ずかしがりやのリザが、今、何をしようとしたかを言葉にするのは無理だろう。
だが、そんな恥ずかしがりやが、どうしてそんな行動に出たのかを聞かずにはいられない。
「…リザは…その…何をしようとしたのかな?」
「…日頃の感謝です」
「感謝?」
「…大佐は、私の怪我が治るまでずっと待っていてくれたんでしょう?」
「…ああ、うん…まあ…」
「だから何かしたくて…」
「いや、だからってね…大体、無理はしなくていいんだぞ」
「無理じゃないです!」
何故か強気のリザは、私の目をきっと睨むようにして見て訴える。
「今まで我慢して…たまっているんでしょう!?」
「リザっ、女の子がそんなこと言うな!」
「…それとも…私じゃ嫌ですか…?」
次はリザが寂しそうに目を伏せる。
「嫌じゃないけど…」
嫌ではない。
むしろ、リザが私のことをここまで考えてくれていたなんて喜ばしい話だ。
しかし、リザがしようとしている行為は、可愛い恋人を汚してしまうようで、かなり罪悪感があるのだ。
ほかの女にさせる時は何とも思わなかったのに、リザだけはどうしても躊躇ってしまう。
リザと体の関係を持ち始めた頃、彼女を抱けることが嬉しくて、彼女にいらないことまで教え込んでしまったことを今になって後悔する。
「大佐…私、優しくしますから…」
尻餅をついたままの私のパジャマのズボンにリザが手を伸ばし、無理やり引っ張る。
「うわっ、何をするんだ!大体、その台詞は私の台詞だ!」
ずるずるとズボンが引っ張られ、慌てて元に戻す。
「大佐は安心して私に身を任せてください」
「分かった!分かったから、ズボンを引っ張るな!」
そう叫ぶと、パジャマのズボンを脱がせようとしていたリザと、脱がせまいとしていた私との攻防がぴたりと止まる。
リザは一度言い出したら聞かないから、もう止めさせるのは無理だ。
「自分で脱ぐんですか?」
「当たり前だ!君にやられてたまるか!」
「気を遣わなくていいのに…」
「そういう問題じゃない!」
女性に、というか、いつも私が優位に立っているのにリザにズボンを脱がされるのは嫌だ。
それから、決意はしたものの、私はなるべくリザにきれいで純粋な女性でいてほしいらしい。
私がパジャマを脱いでいると、シーツの上に座るリザがその様子をじっと眺めていた。
「リザも脱いで」
「え?私もですか?」
「君だけ服を着ているなんてずるいだろう」
「…大佐だけ服を着ている時があるじゃないですか…」
小さな声で文句を言いながらも、リザは素直にパジャマのボタンを外し始めた。
パジャマをシーツの上に置き、しばらく迷った末、リザは少し躊躇いながらも下着も上下共にゆっくりと脱ぐ。
本当は私が脱がせたかったのだが、今回は非常事態だから仕方ない。
そう、今回は本当におかしなことになっている。
裸になってベッドヘッドに背を預けると、リザの体が少し開いた私の足の間にすべり込んできた。
足の間に、正座を崩したような形で横になる裸のリザがいる。
白い体がすぐ目の前にあるだけで興奮してしまう私のものをそっと手に取って、リザは許可を得るように私の顔を見上げた。
「…本当に無理してない?」
「してないですよ」
「ならいいんだけど…」
リザの指が私のものに絡み付いて、ゆっくりと動く。
あまりに優しすぎるリザの扱い方に、もう少し強い刺激が欲しくなるが、彼女は恥ずかしさを堪えてかなり頑張っているのだろうから、何も言わない方がいいだろう。
しかし、久しぶりにリザを抱けるというのは大変嬉しいし、彼女の気遣いも喜ばしいけれど、始まりがこれだとやはり罪悪感を覚えてしまう。
リザにこんなことを教えたのはほかでもない私なのだけれど。
「あの…」
ゆっくりと手を上下に動かしながら、リザが口を開いた。
「何?」
「…こうしてまじまじと見ると…恥ずかしいですね」
「…私だってまじまじと見られたら恥ずかしいんだが」
「そうなんですか?」
「そうだよ」
「…大佐…」
「ん?」
「…何か話していてくれませんか?」
「え?どうして?」
「…沈黙だと恥ずかしいです…」
俯きながら私のものを握っているリザの頬に手を当てる。
リザの頬は高熱でも出したように熱かった。
やはり、リザは自分から言い出したものの、この行為が相当恥ずかしいらしい。
「…嫌ならいいのに」
「嫌じゃありません!…ただ、少し恥ずかしいだけです…」
「やめていいよ」
「…やめないです…」
拗ねたようにむっと頬を膨らませたリザは、だんだんと固くなってきたものを扱く指に力を込めた。
リザが私のものを愛撫する様子を眺めながら、久しぶりにまじまじと見れる彼女の一糸纏わぬ姿を堪能する。
足の間に寝そべる体は、白くて、ところどころがきゅっと引き締まっていて、でもとても柔らかそうだ。
リザが一生懸命に手を動かすのと同時に、豊かな胸が揺れるのが魅力的で堪らない。
秘伝の刻まれた背中の先にある形の良い丸い尻に触れたくなるが、リザに怒られそうなのでやめておく。
「…ん…」
リザがそっと口を開いて、先端を咥え込んだ。
先ほどまでは私の口の中で控え目に動いていたリザの舌が、今度はグロテスクな塊を飲み込み、舐めているなんて、あまりの卑猥さに目眩がしそうだ。
指と舌を拙く動かしながら、リザは時間を掛けて私の呼吸が荒くなる場所を探し当てて、そこを重点的に攻める。
リザはこの行為が上手だというわけではないが、彼女が桃色の唇を大きく開けて、私のものを目一杯頬張っているのを見るだけで興奮に目が眩む。
リザの手の中でそそり立つものはすでに唾液まみれだ。
口から出るのは荒い息で、余裕の振りをするのももう限界だ。
「…リザ…そろそろ…」
リザが私の様子を伺うように、ちらりと目を動かして上を見るだけで体の中心がまた熱くなり、彼女の温かい口の中で腰を思いきり動かしたくなる。
やばい、と思った時、リザが先端を強く吸い上げた。
「…っ…!」
リザの指が下から上に扱く動きと一緒に、呆気なく達してしまう。
頭が快楽に支配される中、辛うじてできたことは、リザの頭を掴んで唇から先端を遠ざけたことだ。
「…ひゃ…っ」
リザの顔に容赦なく白濁とした液体が降り注ぎ、彼女が驚きに小さい声を上げる。
欲望を放つ時間はほんの一瞬だと言うのに、永遠にも長く感じられた。
リザの、リザの顔に出してしまった――
呼吸を整えながら、何てことをしてしまったんだと冷や汗をかいて焦っていると、さらに驚くべきことが起こった。
精液がとろりと頬を伝うのも気にせず、リザがまた先端に吸い付いてきたのだ。
全部を吸い付くすかのように、リザは懸命に唇を動かし、喉を鳴らす。
ああ、これも若い過ちで私がリザに教え込んだことだ。
「リ、リザっ!」
「え?」
「そこまでしなくていいから!」
リザの両頬を掴み、彼女の顔を私のものから慌てて引きはがす。
そして、リザの体を起こして、手近にあったパジャマを掴んでそれで彼女の顔をごしごしと拭った。
「…リザ、すまない…。…その、顔にかける気はなかったんだ…」
「分かってますよ。平気です」
私に大人しく顔を拭かれているリザは、絶対に己の精を肌にぶちまけて征服感を味わう男の気持ちを分かっていない。
私だって、もちろんそんなつもりはなかったのだが、リザの端整な顔を汚した白濁とした液体が伝うのを見ると、また体の中心が熱くなる。
「…気持ち良かったですか?」
私が顔を拭き終えたあと、リザが不安そうにおずおずと尋ねる。
「…ああ、とても。ありがとう」
そりゃあ、もう、天国にいるホークアイ師匠に土下座して謝りたいほど気持ち良かった。
「ふふ」
今まで緊張していたのか、リザはため息をつくと肩から力を抜いて、にこりと笑った。
そして、嬉しそうな様子で、珍しくリザの方から私の胸に寄り掛かってくる。
「…リザ、口をゆすいできたら?顔も洗ってきていいぞ」
胸に抱き寄せたリザの手をパジャマで丹念に拭きながら言う。
「別にいいですよ」
「…ああそう」
リザを抱き締めたまま、ごろんとベッドの上に横になり、今度は私が彼女を押し倒す。
「もう固くなってる。まだ何もしてないのに」
リザにしてやられた分を取り戻すように、強引に乳房を鷲掴みにして、その上で木の実のように赤くなっている突起を摘む。
「…だって、大佐が可愛かったんです。気持ち良さそうで」
リザが頬を赤く染めて恥ずかしがるだろうと思って言ったのに、彼女は私の目をじっと見つめてそう言った。
「…なんか調子が出ないな」
「んっ」
やられてばかりでは私らしくないし、何より今まで散々女性の心を掴んで弄んできた東方の色男が、女性に「可愛い」などと言われるのはすごく悔しい。
胸の尖りに急に軽く歯を立てると、リザの肩が驚いたように跳ねた。
「…首、痛くない?」
「…あ…っ…はい、平気です…」
乳房を舌でねっとりと舐めると、そんなはずはないのに、白く柔らかい肉は甘い。
「…久しぶりだ…この感触…」
「…変なこと…言わないでください…」
「変じゃない」
頬を埋め、顔を優しく包み込んでくれる柔らかさと、舌を這わせると綿菓子のように口の中でふわりと溶けそうな甘さを味わう。
「…は…ぁ…っ」
胸の飾りを執拗に吸い上げていると、だんだんとリザの吐息が熱っぽいものへ変わってきた。
胸元にいくつもの赤い痕を残しながら、手を内股の中心へすべらせると、そこはもうすでに潤んでいた。
「…あ…っ!」
ぬかるみと化したそこを指先で下から上へなぞると、リザの太ももが震える。
「…大佐…そこは…っ」
溢れ出す蜜を一番敏感な小さな突起にまぶすと、リザが高い声をあげてやめてほしいと懇願する。
私がここに触るといつもこうだ。
リザがぎゅっと目を閉じると目尻に涙が浮かんだ。
「…そこ…は、嫌…!」
リザの言うことなど聞かずに、小さな尖りを指の腹で刺激するとリザが身をよじる。
リザが背を反らす度に、唾液にまみれた乳房が彼女に合わせてふるふると揺れるのがとても淫らだ。
「…大佐…っ…だめぇ…!」
リザの声は涙交じりになっていた。
赤く染まったリザの頬には汗や涙が伝って濡れている。
頭を何度も振りかざすリザは、長く柔らかな金の髪がぐしゃぐしゃに乱れていた。
「…んん…っ!」
切羽詰まったリザの喘ぎ声を聞きながら、胸にかじりつくのと同時に、形を持った敏感な突起を指先で強く押し潰す。
「…や、あ……あぁっ!」
リザは背をより大きくのけ反らせ、わずかの間体を緊張させた後、どさりとシーツの上に手足を放り投げた。
リザはまだ息を整えられずに荒い呼吸を繰り返している。
ぐしゃぐしゃに乱れた髪を直し、前髪を梳かすと、涙ぐんだ茶色い瞳と目が合った。
背中がぞくりと粟立つ。
呼吸を乱し、頬を赤く染め、涙を流す様は幼い子供の様なのに、リザの体は快楽に震えているのだ。
リザの顔を見つめたまま、蜜の溢れ出す膣に指を一本だけ差し込むと、熱くとろけているそこは容易に指を飲み込んだ。
熱い肉は指をきつく締め付けてくるが、休まずうねるそこは一本では足りなさそうだ。
「…んあ…っ」
二本の指を差し込むと、リザが甘ったるい声をもらすが、それは苦しそうでもあった。
「…イったばっかりだから辛い?」
「…そんな…こと…っ」
否定をするように必死に首を横に振るリザの目に、またじわりと涙が浮かぶ。
快楽に飲み込まれたリザ・ホークアイの姿を見ると、いつも嗜虐心を煽られる。
「…あぁ…!」
達したばかりの体だということに気を遣わず、指を激しく出し入れすると、リザの顔が歪む。
金の眉を寄せ、目をきつく閉じて強すぎる刺激に耐えるリザの姿は美しいとしか言いようがない。
「…大佐…そんな強くしちゃ…!」
「うん?」
「…やだ…っ!」
寝室にはリザの喘ぎ声と卑猥な水音しか響いていない。
熱く潤んだ肉の中に隠された敏感な一点を見つけると、リザの脚が大きく跳ねた。
「…大佐…っ!」
「何だい?」
「…や、やめてくださ…それ以上したら…!」
指をさらに激しく抜き差しし、敏感な場所へ容赦なく指の先を擦りつける。
リザはシーツを引っ張って掴んでおり、指先も爪も白くなっていた。
「やだ…っ、やだ…!」
「大丈夫だから、リザ」
「…やめて…っ!」
また涙を流すリザの声は、強すぎる快楽を恐れて震えていた。
膣がきゅうきゅうと指を締め付け、果てるのはもうすぐだということが伝わる。
あの真面目な副官が、性的なことを連想させない潔白なリザが、鋭い鷹の眼を涙で濡らして、今は指を飲み込みながら私に許しを乞うなんて、なんて魅惑的なんだろう。
リザが私にしか見せない淫らな様子に恍惚としながら、一番奥へ乱暴に指を差し入れた。
「――あぁっ!」
リザが首をのけ反らせて叫んだ途端、膣から水のような液体が溢れ出し、シーツを濡らす。
それは指を動かす度に溢れ出て、リザの尻の下は水でも零したかのように濡れてしまっていた。
「……ひ…どい…」
宙を虚ろに見つめ、呼吸が落ち着いてきたリザが最初に放った言葉がこれだった。
「…私…嫌だって、言ったのに…」
恥ずかしさのあまり涙を流すリザが愛おしくて堪らず、ぐったりと横たわる体を腕に収めてきつく抱き締める。
「…ごめん、リザ。でもすごく可愛かった」
「そういう問題じゃないんです…!」
「君が可愛くて止まらなかったんだ」
「…何を、馬鹿なことを…」
「本当だよ」
リザの機嫌が直るまで、耳元でごめんと何度も謝りながら、汗に濡れた前髪に口付ける。
しばらくすると、目尻に浮かぶ涙を手の甲でごしごしと拭ったリザは、拗ねたように唇を尖らせて私を見た。
「…私だって、最初は強引でしたけど…大佐はもっと強引でひどいです…」
「久しぶりだったから…ついね」
「…もうしませんか?」
「それは約束できないな」
「…最低…」
リザが私の頭を拳で軽く小突く。
それでも私を見る目は優しく、リザはもう怒っていないようだった。
リザが恥ずかしさを堪えて私に尽くしてくれて、そして私の意地悪を許してくてれて、こういう時、私は彼女に愛されているのだと改めて実感する。
「…幸せだ。すごく」
「え?」
「またこうやって君を抱けて」
小さな幸せに触れると、ホムンクルスと出会ってから一変した生活が終わり、また元の暮らしに戻ったことをまざまざと感じる。
部下が戻ってきて、仕事はいつものように山ずみで、大総統になる道は遠いが閉ざされるわけではない。
司令部で忙しく働いたあとに家に帰って、リザと食事をして、とりとめのない話をして笑って、こうして抱き合う。
長い戦いの末に、ようやく日常が戻ってきたのだ。
「…大佐…」
「うん?」
避妊具をつけてリザの濡れた膣に熱い塊を宛がうと、彼女が小さな声で私を呼ぶ。
「どうした?もう意地悪はしないよ」
「…あ…違うんです…。…ただ、呼んでみただけで…」
そうか、と、あまり気に留めずにリザの腰を掴む。
「大丈夫?」
リザは無言のまま頷くことで返事をして、私の首に腕を回してぎゅっと抱き着いてきた。
これがいつもの二人だけの合図。
しがみつくようにして強く抱き着いてくるリザの金の髪に鼻を埋めながら、ゆっくりと彼女の中に入り込む。
「…んー…っ」
「痛くないか?」
「…痛くはないんですけど…久しぶりで…っ」
リザの中は充分に濡れ、潤んでいるけれど、食いついているようにきゅうきゅうと締め付けられる。
こめかみに浮かんだ汗に口付けると、リザが息をはきながら、ゆっくりと体から力を抜く。
「…ん…っ」
リザの体に負担を掛けないように入り口で浅く抜き差しを繰り返していると、彼女の体がぴくんと跳ねた。
「…大佐…もう…」
「どうした?」
「…もう…動いても、平気です…」
私の首筋に熱を持った頬を埋め、リザが恥ずかしそうに告げる。
仕草と声は幼いのに、リザにしては大胆な発言だ。
我慢ができなくなりそうだと苦笑する。
「…あ…!」
軽く奥まで突き上げると、リザが白い首をのけ反らせた。
「…気持ちいい?」
何度もリザの中に押し入りながら聞くと、彼女は唇に手の甲を押し当てて、喘いでしまうのを堪えながらこくこくと頷く。
「…大佐…、大佐…っ」
「うん?」
熱っぽい吐息と共にリザに何度も名を呼ばれるのが心地良い。
私に隙間なく絡み付いてくる熱いリザの中も、とても気持ち良い。
夢中になって腰を動かしながら、リザの瞼や額や鼻など顔中に口付ける。
「…あ、ん…っ…大佐…っ!」
「…リザ…」
繋がった場所は溶けそうなほど熱く、お互いの体液でぐちゃぐちゃと水音が奏でられ、すごく淫らだ。
「…う…っあ…!」
唇を噛み締めるリザの体が揺さ振られ、首を振る仕草に合わせて金の髪の毛が乱れる姿も実に色っぽい。
リザに遠慮なくのしかかれば、柔らかな乳房が胸板に押し潰されて、その久しぶりの感触に嬉しくなってしまう。
リザと交わるなんて久しく、どんな小さなことでも新鮮で、セックスを純粋に楽しんでいると、ふとリザの腕が首から離れた。
リザの手の甲が、まるで目元を隠すように彼女の瞼に押し付けられる。
「リザ?」
どうしたのだろうと思い、腰の動きを緩めてリザの顔を覗き込むと、彼女の目尻からは涙がぼろぼろと溢れて肌を濡らしていた。
明らかに快楽から流す涙ではない。
妖艶な喘ぎ声も、いつの間にか泣きじゃくるものに変わっていた。
汗がシーツに飛び散り、こんなに体が熱いのに、背中が一気にさーっと冷たくなる。
「リザ!?」
「…うー…っ」
肩を小さく震わせて、リザが腕で目元を隠して泣いている。
慌てて腰の動きを止め、リザの両頬を掴んだ。
「リザ…どうした!?痛いのか!?」
「…違う…違う…んです…っ」
リザの目から溢れる涙は顔を伝って耳の中へ零れ落ちていく。
「…大佐…さっき、幸せって…」
「え?ああ、うん…」
リザはしゃくり上げてしまうのを堪えてそう言ったっきり、また泣き出してしまった。
目元を隠す腕をそっとどけて、すっかり赤くなった瞳と目を合わせる。
「…リザ、どうしたんだ?」
リザと繋がったまま、慎重に体を起こして、彼女を膝の上に乗せる。
「泣いたままじゃ分からないよ」
子供をあやすようにして震える背中を撫でて、ただただ泣きじゃくるリザが落ち着くのを待つ。
気丈なリザが涙を流すなど珍しく、彼女に何があったのか思考を巡らせながら、不安な時が流れた。
「…やっと…戻ってきたって、思ったんです…」
「…うん」
しばしの沈黙のあと、涙で声を震わせながら、リザがゆっくりと言葉を紡ぐ。
久しぶりにベッドの上で時間を気にせず抱き合って、お互いの体温を感じて、私がそう感じたように、リザもまた元の生活が戻ってきたことを実感したのかと知る。
「それは、嬉しいんですけど…私、大佐に謝ることがいっぱいで…」
「え?」
「…あなたの副官として、私は最低なことばかりをして…一度は生きることを諦めようとまでして…っ」
目を覆っていたリザの手が、そっと私の脇腹の火傷の痕に触れる。
「…確かに馬鹿なことをしてくれたと思ったよ。でも君はもう諦めないと誓って、私にちゃんとそれを示してくれたじゃないか」
「それだけじゃなくて…あなたに心配まで掛けて…」
「それはリザが気に病むことじゃないよ」
リザが人質に取られ、さらに首を傷付けられたことを言っているのだろう。
それらはリザのせいではなく、私のせいで、むしろ謝りたいのは私の方だ。
「…何より…私はあなたを守れなかった…!」
声をいっそう高くして、リザが今まで溜めていたものをはき出すように叫ぶ。
また新たに涙を流して、リザはごめんなさいと何度も言う。
ホムンクルスとの戦いにより、私だけではなく、リザも辛い思いをしていたのは知っていた。
知っていたが、私は自分のことで精一杯で、それから忙しさにかまけて、リザの話を聞こうとしなかった。
真面目で気丈なリザは滅多に弱音をはかず、私の方から聞かないと我慢をしていく一方なのに、私は気付いてやれなかった。
私はリザの上官としても、恋人としても最低だ。
「…君が謝ることは何ひとつないよ。リザのせいじゃない」
リザの体を強く抱き締め、白い肩に顔を埋めて、自分の愚かさにため息をつく。
「…私も君を守れなかった」
リザの首に残る痛々しい傷の痕を横目で見て、私の唯一の弱点である彼女を巻き込んでしまったことを悔しく思う。
「…私のことは、いいんです…。…私が大佐を守るから、あなたは何も心配をしなくていいんです…なのに私は…」
「リザは私を守ってくれたよ。君は、道を踏み外そうとした私に銃を突き付け、約束を果たしてくれた。復讐だけに心を奪われていた私に、正しい人間の在り方を気付かせてくれたのは君だ」
頬を濡らす涙を指で拭って、リザの両頬を包み込み、彼女の顔を覗き込む。
「確かに私は一時的に視力を失ったが…あれは誰にも止められなかったことだ。それに、今はもうちゃんと治って、目が見える」
リザが瞬きをする度に涙で濡れてしまう目尻に口付け、笑ってみせる。
「視力を失っても私が私らしくいられたのは…リザがいてくれたからだ。君が私の側にいて支えてくれたから、私はいつもロイ・マスタングでいられた」
リザの顔がまた歪んで、またぼろぼろと涙が溢れ出す。
「ホムンクルスが馬鹿げたことを計画していたせいで、散々な目にあった。でも、辛くてどうしようもない時も怒り狂う時も、リザがうしろにいてくれたから私は正しい道を歩めた。今、私がここにいるのは、リザのおかげだ」
リザが不安に思うことなんて何ひとつない、と、子供のように泣く彼女に諭すように告げる。
「支えてくれて、ありがとう、リザ」
私の体も心も懸命に守り続けてくれたリザの小さな体を、感謝を込めて抱き締め直す。
「…リザだって辛かったのに…気付いてやれなくてすまなかった」
リザは黙ったまま懸命に首を横に振る。
リザは相変わらず呆れてしまうほど健気で真面目だ。
これからはもっと慎重に、リザが私に隠そうとする弱みを読み取ろう。
この先、私達が歩む道は今まで以上に辛く、険しいものになるだろう。
だからこそ、リザに守られるだけではなく、二人で支え合って歩いていきたい。
「…リザ」
まだ呼吸が乱れているリザが落ち着くように背中を撫でて、耳元で何度も愛おしい彼女の名前を呼ぶ。
「リザ」
しばらくそうしていると、耳元に唇が当たるのがくすぐったかったのか、リザの中が突然きゅっと締め付けられる。
急な出来事に、リザの中に入ったままの私のものがびくりと反応してしまい、繋がったままの彼女にそれが伝わって、彼女の肩が小さく跳ねる。
「…あ…ごめんなさい…」
「…いや、私こそ…」
リザは私に謝ると、手の甲で頬の涙を拭った。
「落ち着いた?」
リザが恥ずかしそうに小さく頷く。
「…急に泣いたりしてごめんなさい…恥ずかしいです…」
「黙っているより言ってくれた方が嬉しいよ」
額と額をこつんと合わせ微笑むと、リザも私に合わせるようにぎこちなく笑う。
リザを再びベッドの上にそっと寝かせる時には、彼女はもういつもの私の知る彼女に戻っていて、未だ組み敷かれた体を見られるのが恥ずかしいのか、わずかに身をよじった。
「…んう…っ」
再びゆっくりと動き出すとリザの唇から甘い声がもれる。
リザはまた私の首に腕を回してしがみついてきて、熱い吐息が首筋をくすぐる。
「…リザ…」
「…あ…なんですか…っ?」
「もう絶対に君を離さない」
「…私も…私も、もう絶対にあなたを傷付けたりなんてさせません…ずっと、守ります…っ」
喘いでしまうのを堪えながらリザが力強く答える。
私に組み敷かれてしまえば簡単に抵抗できなくなる小さな体で、今までリザは私を心身共に守ってくれて、それから重症の怪我をものともせずに支えて一緒に戦った。
小さいながらも私を守ろうとする体も、強くあろうとする精神も、リザの存在自体が愛おしく、彼女を貫くようにして何度も激しく突き上げる。
「…あ…、や…っ!」
リザは耐えられないといったように、すべらかな脚を私の腰にぎゅっと絡めてきた。
「…たいさ…っ!」
首に回された腕がよりいっそう強く私を引き寄せたかと思えば、リザの中がぎゅっと締まり痙攣する。
緊張した後に弛緩してぐったりとシーツに沈み込む体を痛いほど抱き締めながら、野太い息をはいて、避妊具の中に思い切り精をぶちまけた。
「…リザ」
名前を呼んでも返事がない。
行為が終わるとリザはすぐにそっぽを向いてしまって、さらにベッドの端に移動をして、今は私に背中を向けている。
私達の間には人が一人入り込めそうな寂しい隙間があった。
リザは行為中に突然緊張の糸が切れて泣いてしまって恥ずかしいのだろう。
その気持ちはよく分かる。
私も恥ずかしいからだ。
初めてリザを抱いた時のような気恥ずかしい雰囲気に包まれていた。
もう絶対に離さないなんて、こんなことを口走ってしまうとは思わなかった。
もちろんリザに言ったことのすべては紛れも無く本音であり、いつか言おうと思っていたのだが、まさかこのタイミングで言うとは考えもしなかった。
「…リザちゃーん」
相変わらずリザからの返事はない。
「…視力が戻って良かったよ。そうじゃないと君のあんな可愛い姿が見れないからな」
「……そういうことは別の時に言ってください」
恥ずかしさを軽口で紛らわそうとしたのだがどうも上手くいかない。
「…なあ、恥ずかしいのはお互い様じゃないか」
ついさっきまで腕の中にあった熱い体が逃げてしまうなんて寂しい。
「今回はリザから誘ったんだぞ」
「ちょ…大佐っ!」
腕を伸ばしてリザの脇腹に手を差し込み、そのままこちらに引っ張って、胸に抱き抱える。
金の頭に鼻を埋め、柔らかい体を胸に押し付けるようにして抱き締めると、やっと落ち着いた。
「『もう離さない』なんて…我ながらくさいな」
「……思い出させないでください」
「リザの愛の告白は嬉しかったなー」
「あ、愛の告白じゃないですっ!」
リザがわざわざ振り向いて抗議する。
「君がもっと恥ずかしがることを言おうか」
「え?」
「愛している、リザ」
リザは頬を見事に真っ赤に染めて、無言で、ぎこちなく私から顔を逸らした。
でも私の腕の中からは逃げようとはしない。
リザに「愛している」と言うなんていつものことだが、何故か今は、私も顔が少し熱くなるほど気恥ずかしい。
しかし、まあ、そんな日があってもいいかと思いつつ、リザを抱き締めながら行為後の満足感と、彼女がこれからも側にいる幸福感に身を委ねた。








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