※大人向けの話を置いています

嫌いな理由  
お見通し  
賭け  
はじめて(2012/08/28)  
二回目(2013/06/01)  




 


「ちょ…っ、待ってください…!待って!」
達したばかりなのに遠慮なく貫かれて苦しいのか、リザは私の肩に乗せた脚をばたつかせた。
「リザ、痛いってば」
「うあっ!」
「痛かったから奥まで突いたよ。これでおあいこ」
急に奥まで突かれた衝撃で、リザは丸く見開いた目から涙をこぼした。
「やだ…もう苦しい…っ」
「でもまだ私はイってないから」
気丈なリザが子供のようにぼろぼろと涙を流す様子は珍しく、それからサディスティックな私は可愛いと見惚れてしまう。
あと二回はできるかな。
「でも楽しんでるじゃないか。ぎゅっと締め付けて」
「締めてないです!」
「私の形、分かる?」
「馬鹿ですか!分かるわけ…!わ、分かるわけないです!」
「あ、ほら、また締め付けた。へえ、分かるのか」
「引きちぎってやりたい…!」
「気持ちいいのに怒るなんて我が儘だな」
「そ、こ…!触らないで…っ!」
金の茂みの中に手を突っ込んで濡れた尖りを指で撫でると、リザは背中をのけ反らせた。
「君が好きな場所じゃないか」
「やだ…もうやだ…!もう大佐としない…!大嫌いっ!」
また閉じた瞳から絶え間無く涙を流して、汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにして、息を切らしながらリザが叫んだ。

「…だからセックスって、嫌いです…」
リザは行為が終わると背中を向けて、私から逃げるようにシーツを頭から被り、包まった。
私は蛹のようになったリザをベッドに寝転んで見ていた。
「私にも一応、性欲はありますし、気持ちいいことは好きです。…最初のうちはいいんですよ。でも段々、あなたの顔つきが意地悪になって…気持ち良すぎるというより、苦しくて辛いんです」
「何回もイかせるからね」
「最後の方なんて覚えてない…」
「理性をなくした君が泣いて、喘いで、抱き着いてくるの、すごくいいよ。あと色っぽくて可愛い顔してる」
「…最低…。本当に嫌…こうして弱音を吐くのも嫌…」
「泣いてる?」
「泣いてません」
シーツをそっとめくると、目元を赤くしたリザが唇を尖らせていた。
強気で、優等生で、いかにも模範的な軍人といった真面目さと固さを持つリザが弱っているのは、堪らなく愛おしい。
シーツごとリザを抱き締めてほお擦りすると、リザはあからさまに嫌そうな顔をした。
「かばんを買ってあげるからそんな顔しないで」
「大佐から見た私ってそんな安っぽい女なんですか」
「そんなことないよ。…うーん、じゃあ、ホールでケーキを一週間毎日買う。花屋の隣で老夫婦がやってるところ」
「…一週間も…」
「あ、笑った。かばんよりケーキか。どっちが安い女かな」
「約束ですよ」
「可愛くて食べちゃいたい」
「ほっぺ噛まないでください。気持ち悪い。…あの、大佐」
「ん?」
「……今度から、もっと優しくしてくれるっていう約束も、してくれますか?」
「そういう可愛らしい言葉が聞けるのは今だけだな」
「どうなんですか」
「優しくされたいの?なんだか微笑ましい願いだね」
「特別に女性扱いされたいわけではないですが、大佐はあまりに特殊なので」
「特殊か…。そういう君も特殊だよね。すごく甘い」
「え?頬がですが?」
「違うよ」
リザが弱り切るまで欲望は果てないし、弱ったリザが大好きだし、もちろんそんな約束に頷くわけがない。
リザもそんなことくらい理解しているはずだが、あまりに憔悴していて藁にも縋りたいようだ。
しかし、乱暴に扱われると知っていても私を放っておけないリザはまた私に抱かれるだろうし、この子は本当に私に甘いのだ。




 


「今日も電気をつけちゃいけないのかな?」
「駄目です」
ベッドの真ん中に座り、私に背を向けてブラウスを脱ぐ彼女が即座にぴしゃりと冷たい声で答える。
彼女は白いブラウスのリボンを解くと床に放り投げた。
「服を脱がすのも駄目なのか」
「脱がされるの、嫌なんです」
彼女の側で横になってスカートの裾を指でいじって遊んでいると、また寂しい答えが返ってきた。
素早くボタンを外し、彼女がブラウスの袖から腕を抜くと下着に包まれた白い肌があらわになる。
「とっとと電気を消してきてください」
寝室の電気のスイッチを指差して彼女が言う。
膝立ちになった彼女がスカートのホックを外すと、スカートがシーツの上に滑り落ちて、私を誘惑してやまない肉付きのいい見事な太ももが晒される。
「早く消してください」
「はいはい」
潔癖で、そして常に軍人であろうとする彼女の気持ちとは裏腹に、男を興奮させる体に成長した彼女の女の姿に見惚れていると、不機嫌な声で催促され、電気を消すためにベッドから起き上がる。
彼女の美しい体が暗闇に隠れてしまうのは実に勿体ないが、珍しく彼女の照れている横顔が見れたので良しとしよう。
年齢に対してずいぶん大人びていて、それから司令部にいる時の彼女はまるで機械でも相手にしているように無機質で、ポーカーフェースのまま表情をちっとも変えないが、実は彼女はまだ二十歳になったばかりの少女なのだと実感できる瞬間だ。
そして、そんな彼女の意外な姿を見れることができるのは私だけで、自然と頬が緩む。

今は何時だろう。
白い霧が掛かったようなぼんやりとした意識の中で時計を見ようとしたけれど、強すぎる刺激がまた襲ってきて、シーツを両手で強く掴んだ。
ベッドに座ったまま脚を大きく開くように彼に要求され、その姿勢のままでいて、どのくらい時間が経っただろう。
私にはとても口にできない恥ずかしい場所に彼は顔を埋めて、そればかりではなくそこに舌を絡めて、吸って、その行為を飽きることなく繰り返していた。
頭がおかしくなりそうだと本気で思う。
上半身を支える両腕が頼りなく震える。
シーツを強く掴む指の爪はきっと真っ白だろう。
今のように、強烈な刺激を執拗に与えられるのは好きではない。
強すぎる快楽に襲われて頭が真っ白になってしまう瞬間がとても怖い。
それから、彼にみっともない姿を見せてしまうのもすごく嫌だ。
きんきんとした甲高い耳障りな声で喘いでしまうのも、シーツを汚してしまうのも、どんなに努力しようと自分ではどうにもできない。
だから、せめて、だらしなく口を開いて言葉ではない単語を延々と発している姿だけは見せまいと、行為中に電気をつけることは絶対にしていない。
がさつな私は、彼が関係を持った女性達の様に可愛らしく振る舞えないだろうし、私のはしたない姿をそんな彼女達と比べられたくないという、くだらないプライドもある。
「よく我慢したね。いい子だ」
彼がようやくシーツから体を起こすと、私と向かい合うように座り、汗まみれの私の体を胸に引き寄せた。
遠慮なく彼の胸にぐったりと寄り掛かり、拷問のような激しい愛撫が終わったことにほっとした。
彼は先ほどとは打って変わって、優しい手つきで私の体に触れ始めた。
乳房の先を爪で引っ掛かれ、思わず首がのけ反る。
強すぎる快楽は好きではないけれど、ごく普通の愛撫は、実はとても好きだ。
単純に気持ちいいから。
それから、これも単純だけれど、好きな男性に素晴らしい体だと褒められ、触られるのが嬉しいから。
私の体は鍛えているせいで女性としてはいびつな形をしていて、守りたくなるような華奢な体つきでもなければ、モデルのように均等の取れた体型でもない。
それでも彼は綺麗な体だと褒めて、いつも恥ずかしくなるほど愛でてくれる。
私はいつもと変わらず行為中も可愛いげのない態度をとるから、彼はそのことに気付いていないと思う。
彼は私の太ももを熱っぽく撫で回す一方で、私の手を取って彼の熱いものに触らせた。
私は恐る恐る指に力を入れて、拙いながらも上下に手を動かす。
彼は私が渋々と愛撫していると思っているだろうか。
これも彼は知らないと思うけれど、彼に触れられるのも、彼に触れるのも私は大好きだ。
彼の唇が私の耳たぶに噛み付き、私は背を震わせながらお返しとばかりに手の平の中のものを強く扱くと、彼の乱れた吐息が直接耳に届いて嬉しくなる。
「初めてじゃないから、怖くないだろう?」
少々乱暴にベッドの上に俯せにされ、彼は私の腰を持ち上げて高く掲げた。
私は無愛想に無言で頷きながらも、彼のものが膣に押し当てられる瞬間は胸が高鳴った。
彼は焦れったいほどゆっくりと私の中に入り込み、最初は優しく、そしてだんだんと腰を打ち付ける動きを激しくしていった。
腰をぶつけられる度に、胸に掻き抱いたシーツがぐしゃぐしゃに乱れる。
「平気か?」
「…だ、大丈夫…です…っ」
指の跡が残りそうなほど強く腰を掴んで引き寄せる状況とは裏腹に、私を気遣う声が優しくて、その低い声のせいで背筋が痺れる。
「すごい汗だ」
彼は片手だけで腰を支えると、もう一方の手で、汗で髪が張り付いてしまっているうなじに触れた。
「食べてしまいたいほど魅力的だよ、少尉」
爪でうなじを軽く引っ掻きながら、彼がうっとりと囁く。
普通の女性よりも頑丈でがっしりとしたこの体を、彼がまた褒めてくれた。
「引き締まった腰の線が悩ましい」と腰を何度もさすり、「ここに顔を埋めると昇天しそうだ」と笑いながら乳房を掬い上げて揉む。
「気持ちいい?」
素直に返事をできるほど可愛い恋人ではない捻くれた私は、声に出して返事をすることもしなければ、頷くことすらしなかったけれど、本当は涙が出そうなほど気持ちいい。
いい。
とってもいい。
もっとして。
とっても気持ちいい。
もうすぐ絶頂が近いのが分かって少し怖くなったけれど、私の手の上に彼が大きな手を重ねてくれた。
私はすっかり安心して無骨な手に頬擦りをする。
「実は、暗くても表情は大体分かるものだよ。君はすごく綺麗で、今だって最高に艶めかしい」
触れ合う素肌も結合部も火傷しそうなほど熱く、その熱に飲まれてしまって、彼が何を言っているのか分からない。
「だから何も心配することはないのに、君は頑固だから、私がどれほど参っているか理解するのに時間が掛かるかな。君の声にも表情にも体にも、私は本当に骨抜きなんだよ。もしかしたら君以外ではもう勃たないかも知れない」
最奥まで思いきり貫かれ、一際高い声で喘ぐと、全身から力が抜けた。

私と二人きりで過ごす彼女は、司令部の「ホークアイ少尉」の時に比べて雰囲気が柔らかい。
特に行為中やその前後は、いつもの背筋に針がねを入れたような真面目さや、私に対する冷たい発言も減って、ずいぶんと人が変わる気がする。
拗ねた表情や照れている横顔も幼いけれど、激しい情交から解放されてぼんやりとする様子も少女っぽく、年相応に見える。
私がベッドに座って行為後の処理をしている様子を、彼女は体を丸めてシーツに包まり、芋虫のような姿になって眺めていた。
「何?」
汚れた手をシーツで拭い、彼女の隣に座る。
「…なんだか中佐の機嫌がやけに良い気がします」
「分かるのか」
「はい」
彼女の言う通り、今にでも鼻唄を歌い出しそうなほどとても気分の良い私の姿を、彼女が不思議そうに見ている。
私の機嫌が良い理由はもちろん彼女だ。
「明日は何か予定があるんですか?」と問い掛ける彼女を見下ろすと、シーツから覗く胸と膝小僧に目を奪われる。
彼女が強い刺激を与えられ続けることを苦手としていることは十分に知っているが、体の芯まで溶かすような執拗な愛撫をしたあとに交わると、彼女が本音をぽろりと漏らすことを発見してしまった。
彼女はもちろん気付いておらず、完全に無意識だろうが、つい先ほどの行為で彼女は「とっても気持ちいい」と呟いた。
それだけではなく、「とってもいい。もっとして」なんてことも吐息混じりに口にした。
自分が乱れる姿を頑なに隠そうとする彼女が素直になるのは非常に珍しい。
「こっちに来なさい」
ベッドに座ったまま大きく両手を広げると、疲れ果てた表情を見せながらも、彼女はシーツに包まったまま私の胸に勢いよく飛び込んできて、私達はベッドに倒れ込んだ。
シーツを仲良く二人で分け合って、素肌同士をくっつける。
労るように彼女の下腹部に触れて優しく撫でていると、彼女は微かに笑いながら私の首に腕を回した。
もし、今の彼女に犬のように尻尾があったら、尻尾はぱたぱたと元気よく振られているだろう。
彼女が私に触れられること、触れることが大好きなのは、もうとっくに分かっている。
暗闇のまま行為をしても、彼女が意地をはったままでも私は構わないが、彼女が自ら私に媚態を見せてくれる日は近いかもしれない。




 


「絶対にこの二人は別れると思います。どうせ主人公の男が浮気するんです。ほかの若い女の子に目がいっちゃって、ポイですよ」
「いいや、二人は別れないだろう。障害を乗り越えて結ばれると思うよ。結婚して子供は三人、赤い屋根の家に住むんだよ。男は一途な生き物だからね」
「劇場を出る時が楽しみですね」
「ああ、楽しみだな。とっても」
劇場の席に座り、映画が始まるのをリザと待ちながら、映画の結末を予想する会話を交わしていた。
今朝、壮絶なラブストーリーが話題の映画にリザを誘った時は、ただ純粋に映画を鑑賞するのみだったが、私が映画のあらすじを彼女に説明している間に結末について意見が分かれた。
リザは「絶対に主人公は恋人である女を捨ててしまう」と強く主張し、私が否定をすると、負けん気の強い彼女はますます熱く「男の軽薄さ」を語った。
男の生態を述べるリザは、まるで私のことを言っているかのように私を見る目つきが怖い。
「なんなら賭けをしようか」という私の言葉に、熱弁でやや冷静さを欠いているリザは簡単に頷いた。
勝者は敗者に一つだけ命令をすることができて、敗者は必ずそれに従うという遊びに珍しくリザが乗った。
私は、負けず嫌いのリザと、この映画を見るように勧めたヒューズに心から感謝をした。
妻と映画を鑑賞してより仲が深まったらしいヒューズは、長電話にて妻の可愛らしさと、映画を見てリザとの距離を縮めろというお節介なアドバイスと、そして親切にも映画の結末まで詳細に教えてくれたのだ。

勝者の私が敗者のリザに下した命令はごく簡単なものだった。
絶対に服従ならば、生真面目で潔癖なリザに下着を身につけさせずに薄着で街を半日ほど歩かせるぐらいのことはしたいが、優しい私は小説のある場面を十行ほど音読してほしいと頼んだだけであった。
ベッドに座り、リザが音読するのをしばらく待っていたが、彼女は小説を読もうとはせず、代わりに荒い息遣いが聞こえる。
「それは私のお気に入りの小説なんだよ。先ほど見た映画のように困難に負けず二人は結ばれる」
肩や本を持つリザの腕が小刻みに震えていた。
首筋にうっすらと汗をかいており、ショートヘアの毛先が肌に張り付いている。
リザは私に背を向けているために見えないが、頬もきっと熱で赤いに違いない。
「…ふ、噴水の…水しぶきの…」
ようやくか細い声でリザが音読を始める。
一行にも満たない文章の前半にじっくりと時間を掛けて、乱れる息を何とか整え、震える声で読み上げる。
「…向こう側で…っ」
「いつものように威勢よく読んでほしいのだが」
リザの腰を両手で掴んで軽く前後に揺らすだけだった動きから、彼女の腰を引き寄せて、結合を深めるように強く穿つ。
かろうじて本を落とさなかったものの、私の膝の上に座るリザは苦しそうに体を折り曲げ、まるで悲鳴を上げるかのように喘いだ。
「つっかえたから最初から読み直しだ」
「…そ、んな…」
絶望したように目を見開いてリザが振り返り私を見る。
「指定した場所を途切れずに読むまでずっと続けてもらうよ。朝になっても、ずっと」
「無理に決まってるじゃないですか…!こんな、読む度に邪魔されたら…っ」
「邪魔って?」
スカートの中に手を差し込み、人差し指で敏感な芽をくすぐってみると、リザはまた甘い声を漏らして首をのけ反らせた。
「…ちゃんと…んっ、普通に…読ませて…!」
「普通?明るい場所で座って読んでいるだろう?抗議するより、ほら、読まないと。ね?」
あらわになった白い喉を撫でながら、私を睨みつけるリザを宥める。
リザにとって有利な状況を作るどころか、逆に腕の中の彼女を先ほどのように揺さ振り始めると、説得は無理だと判断したのか、彼女は渋々と本と向き直る。
「…ふ…んすい…」
「君は『男はすぐ浮気する』とか『男は軽薄だ』とか、私のことを言うみたいに主人公の男を責めていたな。確かにそんな男もいるが、私は一途で情が深い。それを分かってもらえないと意地悪をしたくなる」
小さな芽をしつこく撫でていたせいですっかり濡れてしまった指をリザの目の前に差し出すと、リザは驚いて私をきつく締め付けたあと、怒りの沸点に達したのか本を部屋の壁に投げつけた。
「…この…変態…っ!」
「そうだな、紳士のはずが常軌を逸したことをしてしまうほど君を愛しているというわけだ。はい、やり直しだ」




 


「リザ…リザ?」
小さな声で控え目に、しかししつこく何度も名前を呼んでも彼女は返事をしなかった。
返事をする余裕などないのかもしれないし、そもそも私の声は聞こえてすらいないのかもしれない。
ベッドの横にあるライトは彼女の要望でささやかな明るさになっており、微かなオレンジ色に染まる彼女は固く目を閉じて歯を食いしばっていた。
早くて浅い呼吸を繰り返している彼女の様子が痛々しく、思わず「ごめん」と謝る。
彼女が落ち着くまでは何があっても絶対に一寸たりとも動くまいと決心する。
私を引っ叩くことで気が紛れないだろうかと考えた時、ふと、彼女が腰の横に置いた両手で爪が白くなるほど強い力でシーツを掴んでいることに気付く。
実に彼女らしい姿だと納得してから、切なさと寂しさを覚える。
彼女は小さな頃から人に頼ることや甘えることを知らず、おそらくこの先も他人に寄り掛かるという発想は生まれないだろう。
悲しさや不安という負の感情は自分の外には出さず、一人きりで溜め込み、自分の中だけで消化するものだと彼女は信じている。
他人の心配をして揉め事によく首を突っ込むくせに、自分は他人を寄せ付けないなんて難儀な性格だ。
彼女の生き方を否定するわけではないけれど、時には、周りの人間、特に私には、苦しい時は「苦しい」と有るだけすべての感情を吐き出す方法もあるのだと教えてあげなければならない。
前々から彼女に他人に頼る大切さを説いていたが、彼女を少女から女へと変えてしまった張本人である私は、ますますその使命感に燃えていた。
「リザ」
彼女がゆっくりと瞼を上げたのと同時に名前を囁く。
「大丈夫か?…こういう時はシーツじゃなくて男の首や背中にしがみつくものだよ。痛いなら、男の背中を引っ掻いてやるというくらいの心意気じゃないと」
「……初めてだから分かりません」
彼女が久しぶり発した言葉には棘があった。
声はかすれていて、おまけに囁いているように小さいけれど、驚くほどすらすらと話すために安堵した。
彼女は少し拗ねたように私を睨んで、しかし私の言う通りに遠慮がちに背中に両腕を回した。
「すまない。嫌味だとか、からかっただとか、そういう意味じゃないんだ。それから君が初めてじゃなかったら私は今頃発狂している」
「…ふうん…」
彼女は目をわずかに細め、胡散臭いをものを眺めるような視線を私に向ける。
「ほ、ほら!三日前に見た映画を思い出すんだ!君といい雰囲気になりたくて恋愛映画を見せたけど、私のリサーチ不足で、男女のアレなシーンが入っていて逆に変な雰囲気になった三日前を思い出すんだ!あの映画で、女性は狂おしく男性に抱き着いていただろう?あれを真似してごらん!さあ!」
「あの黒髪の女性の真似ですか…」
話題を逸らす為に、無駄にテンションを高くして変な話を口走ったが、彼女は背中にぎこちなく巻き付けていただけだった腕を、抱き締めると表現できるものに変えた。
まさかあの映画が何かの役に立つとは思わなかった。
それから、彼女が「主人公の飼っていた犬が可愛かった」と的外れな感想を述べた映画のラブシーンを覚えているのも意外だ。
「うん、いいじゃないか。シーツに皺をつけるんじゃなくて目の前の元凶に噛み付くなり引っ掻くなりの仕返しをすればいいんだよ。そうじゃないと私はすごく寂しい」
「あの、中佐」
「ん?」
「中佐は俗に言うマゾヒストなんですか?…その…なるべく中佐の要望に応えるように努力はしたいですが私にはそんな特殊な性癖はなくて…」
彼女の発言が冗談なのか本気なのかは分からないが、普段ならば恥ずかしげに目を伏せるなんて可愛い動作はしないのに、問題発言をする時ばかり女性らしい仕草をするから腹が立つ。
「馬鹿か君はっ!」
つい先程まで処女だった娘が一体何を心配しているのだと、彼女の体を気遣うのも忘れて怒鳴る。
「中佐」
「今度は何だ。この家に赤い蝋燭や縄はどこを探してもないぞ」
「私がこんなことを言うと不似合いでおかしいかも知れないですけど…シーツよりも今の方が安心します」
私の襟足を指で引っ張りながら、先程の戯言が嘘のように、彼女が真剣な眼差しで告白する。
「距離が近いと…安心します」
「うん」
「中佐の匂いがしますし」
「うん…。まったく、君は急に真面目になるな。ついていけない」
汗で額や頬に張り付いた金の髪の束を手に取り整える。
ようやく「初めて」らしい雰囲気になった気がする。
「すまない…痛いだろう?」
「平気です」
「泣いているのに?」
髪を直した手で目尻を濡らす涙を拭うと、彼女はようやく自分が泣いていたことに気付いたらしい。
彼女は目を丸くして驚いた。
「…まさか泣くなんて…。確かに、まったく痛くないと言えば嘘になりますけど、泣くほど痛くなんてないのに…」
「本当に?」
「『初めては失神するほど痛い』なんて士官学校でよく話題になったので身構えていたんですけど、人それぞれですね」
「痛みはそれほどでないにしても、気持ち良くはないだろう?」
「…それは…そうですね。微塵も気持ち良くないです。やはりお腹の辺りが気になって…その、怖いというか…」
「そういう時は、最初から素直に『痛い』とか『怖い』とか言うんだ。これからはそうしてくれ」
「でも我慢できますよ」
「我慢なんかするな」
「だって、抱いた女性が終始痛がっていたら後味が悪いでしょう?」
「抱いた女性が終始痛みを我慢している方が後味が悪い!」
つい声を荒らげてしまう。
君は大馬鹿者だと歎きながら深いため息をついた。
私が問い掛けて彼女が答える度に、彼女が取り繕っていた仮面にひびが入る。
彼女が私に気を遣わせないように普通だと装うのは、彼女なりの愛情かもしれないが、私が求めている愛情表現は自己犠牲ではない。
私の我が儘かもしれないけれど、彼女お得意の「自分は大丈夫だ」という偽りはやめて、弱った姿を晒して助けを求めるような、そんな関係になりたいのだ。
「じゃあ、こうしてペラペラとお喋りしているのも実は辛いんだな」
「…できれば無言でじっとしていたいです」
再び盛大にため息をつく。
予想外にも淀みなく話すからそれほど苦しくはないと思い込んでいたが、まんまと彼女に騙された。
考えてみれば、呼吸は苦しげだったし、痛いわ怖いわで泣いてしまったのだから平気なはずがないのだ。
彼女の下手な演技を見抜けないとは、私は彼女を抱くことに関して無意識のうちにかなり緊張しているようだ。
「今日は初めてだから許すけど、次に我慢をしたら怒るぞ」
「…はあ…」
私の真剣さがまったく伝わらないまま適当に気のない返事をした彼女だったが、私が彼女の下半身に指を滑らせると彼女は途端に体を強張らせた。
「駄目だよ。腕はさっきみたいに背中だ」
私の手首を掴もうとした彼女の手を素早く捕まえ、無理矢理背中に戻す。
繋がった部分の少し上の敏感な芽を指先でくすぐると、彼女は久しぶりに高い悲鳴を上げた。
ただ背中に添えていた腕で彼女が無我夢中で私にしがみつき、いい傾向だとひっそり笑う。
「…触らないで…」
彼女が抵抗の意味を込めて、何度か首を横に動かすと、短い髪の毛がシーツの上でもつれた。
荒い呼吸の合間に彼女がもうやめてほしいと懇願する。
「君が『頭がおかしくなりそう』と言った場所だからね」
「…本当に変になりそう…!」
「こんな方法しかなくて申し訳ないが、少しは楽になるはずだ」
切羽詰まった彼女の声を遮って愛撫を繰り返す。
相変わらず彼女の中は雄を威嚇するように狭くてきついが、しかしだんだんと潤いを増してくる。
彼女が落ち着くまで絶対に動かぬよう決めていたが、執拗な愛撫に応えるように彼女の肉が大きくうねった時は思わず呼吸が乱れた。
目敏くも私が荒い息を吐いたのに気付いたらしく、彼女は固く閉じていた目を開けて私を見上げた。
「…あの…中佐…」
これ以上締め付けられたら危ないだろうと判断し、愛撫を緩やかなものに変える。
私の指の動きが優しい動きになったのを見計らって、呼吸を整えた彼女は上擦った声で私を呼ぶ。
「映画で…男性は動いてましたよね」
「ああ…そうだな」
「というか、その…この行為って、男性か女性のどちらかが動くものですよね。中佐に抱き着くなんて考えはなかったですが、私にも一応それなりの知識はあるんですよ。…それで、中佐は動かないんですか?それとも私が動くんですか?」
「君に動けるわけがないだろう。…君が落ち着いたら…あー、私が動くから」
ベッドの上でどちらが主導権を握るかという甘い駆け引きは好きだが、色気のかけらもなく「私が動く」という主張をするのはすごく恥ずかしいものだと知った。
彼女に包まれたままずっと動かず、あとどれほど平気な振りをできるか心配になっているせいもあってか、彼女の質問に気の利いた言葉で答えを返せない。
「違和感はまだ消えないですけど、だいぶ楽になりましたよ」
「気持ちいいの?」
「気持ち悪くはないです。中佐は?」
「…悪くない」
というか、とてつもなくいい。
熱くて、濡れていて、彼女が驚くとぎゅっと締め付けてくる場所に包まれているのだから、悪い訳がないのだ。
第一、好きな女性と結ばれたのなら、無条件で気持ち良いに決まっている。
そんな魅力的なところに身を沈めたまま微動だにせずじっとしているため、目の前がそろそろ霞んできそうだ。
本音を言えば、随分前から動いてしまいたい衝動と戦っている。
「動かないんですか?」
彼女は嘘ではなく本当に楽になったらしく、先程お喋りをしていた時よりも声が柔らかい。
思考回路がぐにゃりと歪んでしまった気がした。
しつこく愛撫を施したせいか声に艶があり、その破壊力は凄まじい。
この先、彼女の問い掛けを上手に躱し、紳士的な言葉を返す自信が急になくなる。
このままでは危険だと、少しの風で崩壊してしまいそうな理性が警告する。
「ずっとこのままですか?」
「いいや…もう少し君が落ち着いたら…」
「だから、もう平気ですよ」
彼女の言葉は悪魔の囁きだ。
無理はさせたくないと誓ったのに、目の前の白い体に遠慮なく貪りつく光景が頭をちらついた。
「私だって、中佐が我慢をするのは嫌なんです。これ以上我慢したら怒りますよ」
「君の我慢と、今の私の我慢は重さがまったく違う」
「やっぱり我慢しているんですね」
彼女の誘惑の言葉に乗せられぬよう、とにかく否定をするのに精一杯でほかのことに気が回らず、うっかりと我慢をしていると口にしてしまった。
もう何も喋らないでほしい。
吐息交じりの声を聞く度に、彼女を突き上げること以外は何も考えられなくなりそうで恐ろしい。
彼女が特に意識をしていなくても、彼女の言動は私を煽るものに変わってしまう。
「我慢は駄目です」
背中を抱き締めていた彼女の両手が、私の頬を包み込む。
小さい子を叱るような彼女の様子は可愛らしく、このまま貫いてしまったらどんなに気持ち良いだろうかと考えてしまう己の意志の弱さが憎い。
「動いても平気ですから…ね?」
かさついていて、もちろん化粧など施してもいないにも関わらず、飾り気のない唇は妙に艶めかしく、言葉を紡ぐ度に形を変えるそれに魅入ってしまう。
赤い唇が「動いてもいい」と誘う。
魔法にでも操られている気分だ。
いや、催眠術か?
潤んだ茶色い瞳に見上げられると背筋が痺れる。
動いてしまえば楽になれるし、彼女もそれを望んでいる――
男を唆す方法などどこで覚えてきたのだろう。
彼女の言葉に誘われるままに、両手は細い腰を掴んでいた。

「…安静にしていた方がいいと思う」
「私は病人じゃないんですけど…。体が汗でべたついたままなのは嫌です」
行為後、謝罪と、それから甘い愛の言葉を囁こうとした途端に、彼女が痛みの残る体を引きずって風呂場に行こうとするため、恋人同士の語らいは即中止になった。
ベッドから離れた彼女をなるべく優しく捕まえると抱え上げ、私の足で風呂場へと運ぶ。
行為を紳士的に終わらせることができなかった嫌悪感でいっぱいだった私は、とにかく彼女にあまり負担を掛けまいと、彼女の頭と体を優しく洗い、濡れた全身も丁寧に拭いた。
風呂場へ連れて来た時と同様に、私のバスローブで包んだ彼女の体を抱え上げてベッドまで運ぶ。
「マスタングさんの家のお風呂って広いですね。私とマスタングさんの二人が入れるなんて、私の家では考えられないですよ」
気付けば、彼女が私を指す呼び名が懐かしいものへと変わっていた。
この古い呼び名を口にするのは彼女は寛いでいる時で、今はすべてが終わって緊張が解れているのだろう。
「至れり尽くせりで、身分が高い人にでもなった気分です」
ベッドに仰向けに体を横たえる彼女は、金色の髪を傷付けないように入念に拭いている私を見て、少し呆れたように笑った。
「女性の初めてが痛いのは当然なんですから、気に病む必要なんてありませんよ」
「…私の予定ではもう少し辛抱して優しくするつもりだったんだ。自分の理性の薄さにがっかりだ…」
「マスタングさんは優しかったですよ」
「…本当にすまない…」
「私の話、聞いてますか?お風呂場でも何度も謝られましたけど、謝る必要なんてまったくないんですよ」
私が髪の毛を拭き終えると、彼女は居心地の良い場所を探しているらしく、緩慢な動きで体を動かし、右を向いたり左を向いたりした後に俯せの格好に落ち着いた。
サイズが大きい上に、彼女が動いたせいですでにバスローブがはだけている体の上にブランケットをそっと掛ける。
「もう少し厚めのブランケットがあるんだが、そっちにしようか?水は?あ、枕はどうする?」
「私の顔に『割れ物注意』のシールでも貼ってあります?」
私の甲斐甲斐しさに呆れ果てているようだが、彼女の笑った顔は優しい。
「痛いのが避けて通れない道でも、男は好きな女性に何でもしてあげたくなるものなんだ」
「じゃあ、ちょっと隣に来てください」
ベッドの端に移動した彼女は、シーツの上を手の平でぽんぽんと叩いた。
ブランケットに潜り込み、言われた通りに彼女の隣に仰向けに寝そべった。
「多分、こういう時って色々と語り合うものなんでしょうね。どれくらい好きだとか、未来の話とか」
「そのつもりだ」
「やっぱりそうなんですね。ですが私は寝させていただきます。だるいし疲れたので…。別にマスタングさんのせいじゃないですよ」
自分を責めないでほしいとフォローしてくれたのは心に染みるが、いい雰囲気を作る前からぶち壊しにして、悪戯っ子のように笑うのは頂けない。
今日は大切な「初めての夜」で、そして私が雰囲気や思い出を割と大事にする性格だと知っているくせに、彼女は相変わらず恋人の恒例行事に参加する気はないらしい。
「私と君は、何でこういつもいつも…。ロマンチックな夜を期待した私が馬鹿なのか…」
「そうですね」
甘ったるいムードを作る天才である私が、なぜ彼女の前だと失敗するのか本気で悩んだ時期があったが、原因は私ではなく彼女にあった。
彼女は恋だとか愛だとかがそこら中に浮遊する空気が苦手なのか、そんな場面が到来する前に、彼女は上手く逃げ出してしまう。
「あの、マスタングさん」
「ん?」
「左手を借りてもいいですか?」
「別にいちいち許可を取らなくてもいいよ」
「いちいち聞く女性は面倒だと思いますか?」
差し出した左手を右手で包み込みながら、彼女が少し心配そうに尋ねる。
「いいや、私の体はもう君に委ねているから、当然この左手も君のものだ。好きにしていい」
「……返品は可能ですか?」
彼女は冷ややかな視線を私に向けつつ、左手を私の方へぐいと押し返す。
「おい。しまいには泣くぞ」
彼女に痛い思いをさせてしまったし、愛の語らいは拒絶されるし、彼女ばかりが悪いわけではないが、もう踏んだり蹴ったりな散々な夜だ。
「冗談ですよ」
彼女が言うととても冗談に聞こえない。
彼女は私の左手を口元の近くに置き、その上に自らの右手を重ねた。
まるでお気に入りの人形を抱いて眠る子供のようだ。
「他人の体温や匂いがこんなに落ち着くなんて知りませんでした」
目を閉じた彼女が嬉しそうに呟く。
左手にわずかに触れる吐息がくすぐったい。
「私はマスタングさんに初めてを奪われてしまいましたけど、マスタングさんも処女の女性を抱くのは初めてなんですか?」
目をつぶったまま彼女が尋ねる。
「ああ、初めてだ」
「そうですか。じゃあ私もマスタングさんの初めてを奪ったんですね」
彼女は満足げに口元を緩めるが、それは「奪った」と呼べるものに入るのだろうか。
それから、「私の初めて」は彼女にとって喜ばしいものなのだろうか。
聞き返そうとする前に規則正しい呼吸が聞こえてきて、彼女が眠ってしまったのだと知る。
「…これはこれで、なかなかロマンチックだと思うんだが…」
左手を握って眠る彼女を横目で見て、可愛いことをしてくれるじゃないかと妙に照れる。
我慢できずに好き勝手に暴走してしまった罪悪感はどこかへ吹っ飛んでしまっていた。
彼女が触れている左手が、いいや、全身が異様な熱を発していて、まるで風邪でもひいたようだ。
昔、まだ小さかった彼女が珍しく白いワンピースを着ていた時に、風のいたずらのせいであらわになった太ももの白さを目撃してしまったあの頃の胸の高鳴りを思い出し、あれが今の心境と何かが似通っていると気付く。
いい歳をした大人が頬を赤く染めながら、「これが恋なのか」と胸に広がる甘酸っぱさを噛み締めているのだから、我ながら手に負えないと思う。
彼女に他人に甘えることを教えていくつもりだけれど、私も彼女から教えられることもたくさんありそうだ。




 


今夜のリザは「そういう気分」だったようで、大いに盛り上がった。
にこにこと笑いながら私の服を脱がせてくれたし、何度もキスをせがむし、私を離すまいとするように腰に艶めかしく脚を巻きつけるし、珍しいことにリザが積極的で大満足だ。
ただひとつだけ反省しなければならないのは、初っ端から飛ばし過ぎたことだ。
まだたった一回しかしていないのに、リザはすでに疲れ果ててぐったりとシーツに横たわっている。
ベッドの端に座って事後の処理をしながら、あと数回はしたい私を今日のリザなら抵抗するどころか歓迎しそうなのに、配分を間違えたと後悔する。
深くため息をつくと同時に、うしろでリザが動いた気配がした。
「何してるんですか?」
もぞもぞとシーツの上を這ってきたリザはうつ伏せに寝そべったまま、私の腰に腕を巻きつけた。
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「もう終わった。男にはいろいろあるんだよ」
「次はシャワーですか?」
「シャワーはまだ浴びなくていいかな」
「まだですか」
「まだだね。今は休憩中」
「…じゃあ、休憩時間を短くしてあげます」
さらりとリザが大胆な発言をする。
太ももを彷徨っていたリザの指がそっと自身に触れて、この場にそぐわない変な悲鳴を上げそうになるが、ぐっと堪えた。
今晩のリザの積極性は凄まじい。
過去に何度か、嫌がるリザを無視して無理やり掴ませたことはあるけれど、彼女自ら触るのなんて初めてだ。
「…その姿勢はやりにくくないの?」
「やりにくいですけど、正面からこれを直視できるほど慣れてないので」
腰に軽く噛み付きながらリザが答える。
確かにリザの顔面に自身を突き付けたら、萎えるほど嫌な顔をされそうだ。
リザの顔が見えないのは非常に残念だけれど、だらしなく頬を緩めても気付かれないのは有難い。
リザも、お互いに顔が見えないからこそ大胆になれるのかもしれない。
「今さらなんですけど」
「何?」
「扱い方が分からないです」
「そうだろうね」
リザの指は愛撫をするというより、手持ち無沙汰なのか先ほどから形をなぞるように動いている。
「やり方を教えてくれないんですか?」
「好きなようにやればいいよ」
「…意地悪ですね」
別に意地悪をしているわけではなく、ただ純粋にリザの動向を見守りたいだけだ。
やり方を知らないリザがどう動くのか楽しみだし、私に助けを求めてきたらさぞ可愛らしいだろうし、方法を教えてしまったら見られない姿を今は愛でたい。
「下手くそって笑ったら…痛くしますからね」
「それは怖いな」
「冗談じゃないんですよ」とむくれながら、リザの指がぎこちなく動き始める。
輪を作った指がただ単調に前後に動くだけで、技術と呼べるような高度な動きはまったくなく、お世話にも上手だとは言えないのだが、やはり惚れた弱みなのか気持ち良い。
ぎこちない愛撫をしながら、たまにリザが気まぐれで私の腰に歯を立て、吐息が肌をくすぐるのがより一層快楽を煽る。
「あの…中佐」
「ん?」
「…しっかり反応してますよ?」
手の平の中にあるものがだんだんと熱を帯びていくのを感じたらしいリザが、何故か戸惑ったような声を出す。
「君のせいじゃないか」
「…ということは、ちゃんと気持ちいいんですね」
右手はそのままで、嬉しそうに笑いながら上半身を起こしたリザが私の背中に抱きつく。
「今日は機嫌いいね」
「そうですか?」
私の耳たぶを口に含みながらリザがとぼけたように笑う。
いつか、この舌と、背中に押し付けられて形を変えている胸を使って愛撫をしてほしい。
赤い唇の中の熱さや舌の形、乳房のまろやかさをよく知っているため、それを想像しただけでもうっとりとする。
「少尉、もう休憩は終わりだ」
「ん、分かりました」
うなじに口付けていたリザが、少し名残惜しそうに手を放す。
「…今日は私がつけていいですか?」
「駄目」
背中に抱き付いたままのリザが、避妊具を手にした私を見て好奇心を滲ませた声で尋ねるが、きっぱりと断る。
「何でですか?」
「君は絶対に下手だしせっかくいい気分なのに痛い思いをしたくないし第一に一から丁寧に教えている余裕がないから」
手早く避妊具をつけてリザの方へ振り返り、不満げに頬を膨らませる彼女に覆いかぶさる。
「…ずいぶん早口ですね」
「だから余裕がないんだよ」
「勝手に下手って決めつけるし…」
文句を言うリザの体をひっくり返してうつ伏せにして、両手で腰を掴んで高く持ち上げる。
この時点でリザは、いつもは恥ずかしいから嫌だと拒否する体勢で交わることに気付いているはずだが、彼女は大人しいままだ。
十分にぬかるんでいる入り口に先端を押し付けてそのまま入り込むと、リザの背中がふるりと震えてしなった。
腰を揺らしながら丸い尻を撫でると、リザの中がきゅっと狭くなって可愛らしい。
背後からではリザの表情が見えなくて残念だが、こうして尻や胸にいたずらをするのは楽しい。
何より、リザはこの体位を嫌がるけれど、毎回気持ち良さそうに乱れている彼女がこの格好の何が気に入らないのか分からない。
「かなりきついな…締め上げられてるみたいだ」
「変なこと…言わないでください…」
恥ずかしいのか耳を赤く染めたリザの表情が見たくなり、背中に覆いかぶさって顎を掴み、無理やり振り向かせると潤んだ瞳が私を見上げる。
「…首が痛いです」
「うん、ごめん」
胸を掬い上げて揉みしだくと、リザがきつく目を閉じて悩ましげな声を上げ、その姿に見惚れる。
同時に、後ろを振り向いた姿勢はやはり辛いのか、それとも頭をシーツに押し付けることで快楽を放散しようとしているのか分からないが、リザは私の手から逃れてしまって、今は彼女の横顔しか見ることができない。
背後から攻めるのは貴重な機会だから楽しいけれど、やはりリザの艶かしい姿を見ることができないのが難点だとつくづく思う。
今度はリザの前に鏡でも置いてみようかと本気で考える。
「中佐…っ、だめ…!」
鏡のことを考えつつ、手の平で胸の飾りを転がして遊んでいると、リザが切羽詰まった声を上げる。
「どうして?」
「駄目ですってば!…本当にだめ…っ!」
「何が駄目?」
にやつきながら、リザの体を堪能するように胸から腹まで指でなぞる。
「や…っ、…あぁ…っ!」
茂みの中でぷっくりと膨らんでいる突起を摘まむと、彼女は背中を思いきり仰け反らせた。
まるで泣いているかのような声を上げて高みに達した彼女を恍惚と眺める。
まだまだ遊び足りないが、リザの中が痛いほどにきつくなり、思わず顔をしかめた私もそろそろ限界が近い。
リザが落ち着くのを待たずに、彼女の尻に腰を思いきり打ち付ける。
「…ひ、どい…!」
「ひどい?何が?」
「分かってるくせに…!私だって、休憩、ほしいのに…!」
私にされるがまま揺さぶられていたリザが、素知らぬ顔で腰を突き動かす私を、乱れた呼吸の合間合間に非難する。
「頭がおかしくなりそう…!」
いつも以上に敏感になっている中を引っ切りなしに攻められているリザが、ついに耐え切れなくなったのか、普段は絶対に口にしない本音を叫ぶ。
「気持ちよ過ぎて頭がおかしくなりそう?」
もっと本音を零さないかと期待して、汗ばんだ背中に唇を落としながら問い掛けるが、リザから答えは返ってこない。
「すぐにイっちゃったし、やっぱりリザちゃんはこの体勢好きなのかな?聞こえてるか?おーい、リザちゃん?リザー?」
しつこく呼び掛けてみても、リザは言葉にならない声で喘ぐばかりで答えてくれない。
「気持ちいい?」
「きもちいい…っ」
会話をするどころか、私の声すら聞こえていないようだと諦めかけた時、ふとリザが発した言葉を聞いて目を丸くする。
普段ならばいくら気持ち良くさせても絶対に言ってくれないくせに、今のリザはあっさりと、甘ったるい可愛い声で口に出した。
やはり、先ほどのようにお互いの顔が見えないと素直になりやすいのだろうか。
今夜のリザが積極的だからなのか、それともこの体勢がもたらした奇跡なのかは分からないが、とにかく今日は最高だ。
リザの腰を掴む手に力を入れ直し、貫くようにして思いきり彼女の体を突き上げた。

「三回目って…ありかな」
「なしです」
激しいという一言では表せない燃えるような熱さだった二回目を終えたあと、リザは眠ってしまったかのように目を閉じ、うつ伏せのまま動かなくなってしまったが、今ようやくぱちりと目を開けた。
そしてぴしゃりと私の提案を断った。
リザの背中を撫でている私を見上げる彼女は、心なしか私を睨んでいるように見える。
「べたべたで気持ち悪い…シャワー浴びてきます」
緩慢な動きで起き上がったリザは、床に散らばった服の山からブラウスを拾うと肩に掛けた。
「べたべたなのは私のだけじゃなくて君の」
「うるさいですよ」
裸足で床を歩きながら冷たい声で私の言葉を遮ると、リザはバスルームへと消えてしまった。
「少尉は余韻って言葉を知らないのか…」
先ほどまでの可愛くて淫らなリザはどこへ消えたのだろうか。
素直に「気持ち良い」と言ってくれるリザをもう一度見たくて、三回目はどうかと誘ったのだが、それはやはり欲張りだったか。
次に抱く時も絶対に言わせてやると心に決めつつ、喉の渇きを覚えてキッチンに向かう。
冷たい水がたっぷり注がれたグラスに口をつけると、ふと視線を感じて横を向く。
キッチンの隣にあるバスルームのドアのわずかな隙間からじっとこちらを見ているリザと目が合い、思わずシンクに水を吹き出した。
「…汚い…」
「ちょ…っ、怖い!怖いよ君!」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない!」
むせて涙目になってしまった。
かすかに開いたドアの隙間から覗かれていたなんて、ホラー映画よりよっぽど怖い。
「中佐、一緒にお風呂入りませんか?」
「…え?」
「私達は今とっても疲れてますよね。早く寝ないと明日は寝不足、最悪遅刻してしまいます。一刻も早く寝るべきです。かと言ってシャワーを浴びないわけにはいかない。明日の朝にシャワーを回すと万が一寝坊した時にはもう大変です。私がバスルームを占拠している間、中佐は暇でしょうし、時間が勿体無いです。それにその間にもし中佐が寝てしまったら先ほど言ったように寝坊すると最悪なんです。というわけで、今、私と中佐が一緒にお風呂に入れば時間の節約になって、二人ともさっぱりとしたいい気分で眠りにつけるんです」
「…あー、そうだね、うん」
「じゃあ待ってますね」
扉の隙間からリザがにこりと笑って、今度こそ浴室に消えてしまった。
細い隙間から無言で私を見る目があまりに怖すぎるとリザを叱っている場合ではなくなった。
一緒にシャワーを浴びるべきだと長々と説かれたが、リザが嘘をついている時は話が無駄に長くなり、そしてその話にまとまりがなく下手なのは、私が一番よく知っている。
これは期待しても良いのだろうか。
「そういう気分」のリザの破壊力は、つくづく凄まじい。
もう一度「気持ち良い」と言わせてやると意気込みながらバスルームに駆け込んだ。





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