※大人向けの話を置いています

いたずら(14/09/02)  
リザ・ホークアイ大尉の秘密(14/09/17)  
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ここ数日、忙しくて家に帰る暇もないほど仕事に追われ、司令部で寝泊まりをしながら働き続けて、暖かな湯船や柔らかいベッドが恋しい日を送っていた。
明日はようやく皆が家に帰ることができるけれど、私はある用事でセントラルに行かなくてはいけない。
ただでさえ疲れていて機嫌が悪い彼は、机を拳で叩いて、「君は私の副官のくせに側を離れて私を一人にするのか」と怒鳴った。
行きたくて行くわけではないという言葉を必死に飲み込んだ私の姿に、彼は気付いたのだろうか。
出張の荷造りをするために昼休みの間に一時的に自宅に戻り、かばんに手早く荷物を詰めて行く。
忙しいのに加えて彼が苛ついているために早くここを出て再び司令部に戻らないといけない。
彼は、自分だけが我慢をしているのだと思い込んでいる。
欲を満たせず飢えているのは自分だけで、可哀想なのも自分だけだと信じている。
女心に聡いはずの彼がこうしてたまに見せる鈍感さに、ついため息をついてしまう。
荷造りを終えて家を出る前に、鏡台の引き出しから以前彼に貰った真っ赤な口紅を取り出す。
花の模様が彫られた可愛らしいスティックを手にし、口紅を引いて上唇と下唇を合わせて離す。
鏡の中に欲求不満のみっともない顔をした女が映っていて、唇だけが場違いに赤いのが恋人に対する不満を引き立てているようで可笑しい。
白いハンカチに「あなたの可愛いリザより」と口紅で書いて、さらにそこに赤く色付いた唇を押し付けた。
封筒の中にハンカチと、それからクローゼットの奥から取り出した黒いショーツを入れて封をする。
太ももに顔を埋めてこのショーツのサイドの紐を引っ張って脱がせるのが彼は好きなのだ。
司令部に戻ったら、彼がいない時に執務室の机の引き出しの中にこの手紙を入れて、何も知らない顔をしてセントラルに向かうつもりでいる。
これは、自分ばかりが不幸だと思っている彼に対しての嫌がらせで、それから、熱を持て余している体を少しでも慰めるための悪戯だ。

一泊二日の出張を終えてイーストシティの駅に降り立つと、ホームに彼が立っていた。
彼は私の荷物を奪い去るようにして持つと、挨拶もそこそこに足早に歩き出し、私は黙ったまま彼のうしろをついて行く。
駅から離れた人通りの少ない場所に車が停めてあり、彼は私の背中を手の平で押して、まるで車に詰め込むようにして助手席に座らせた。
彼も車に乗り込んで運転席のシートに座るのと同時に、太い腕に抱き寄せられ、口付けられる。
「…会いたかった、すごく」
まるで食べられてしまうかのような激しい口付けのあと、彼は痛いほどに強く私を抱き締めて肩に顔を埋めた。
「ここじゃ、駄目です…」
このまま彼に身を任せてしまいたいのを堪えて、彼の胸を押し返す。
私はもうすでに数日前からまともな思考ができていないけれど、それでも獣になるのはまだ早いと踏みとどまる。
誰かに見られたらどうするのだと心配するのではなくて、私の中で気持ち良さそうにする愛おしい彼の姿を誰にも見せたくないために二人きりになりたいのは秘密だ。
「人がいない場所を選んだんだ。誰も見てないさ」
「それでもここでは駄目です」
「人の机の中に下着を突っ込むような女が何を今さら常識ぶるんだ」
彼は意外だと言いたげに大袈裟に眉を上げて私を見る。
「あの下着にはかなり世話になったよ。とても君の代わりにはならないけれど、でもずいぶん慰めてくれた」
彼はそう話す間も、私の頬に口付けたり下ろしてある髪の毛を掻き乱したりして忙しい。
「下着、返してくれますか?」
「あれは私にくれたものじゃないのか?ひどく汚してしまったから返すのが恥ずかしいな」
「ないと困るんです、下着」
わざとらしく口を手で覆って照れた振りをする彼に対して、私もわざと目を伏せて困った振りをしてみせる。
ブラウスのボタンを上から二つだけを素早く外すと、彼の喉がごくりと鳴ったのが見えた。
彼の手が伸びてこないように警戒しながら、肩をはだけさてブラジャーの肩紐を彼に見せる。
「それって…」
繊細なレースがあしらわれたストラップを見ただけで、彼はあのショーツと揃いのブラジャーだと気付いたらしい。
「私にくれたものと同じ下着じゃないか。…ん?でも下って今は私が持っているんだよな?」
「ですから、返していただかないと困るんです」
「…は?いや、まさか…」
「鈍感な大佐にヒントを差し上げます。簡単なクイズですよ。今、私はショーツをはいていると思いますか?」
スカートをめくり上げて確認しようと伸びてきた彼の手を容赦なく叩いて、にこりと微笑む。
「今は駄目です。人の気配に怯えるのも、集中できないのも、邪魔が入って中断するのも嫌です。大声を出すことができて、汚しても頭がおかしくなっても誰にも文句を言われない場所で、安心してあなたにいやらしいことをしたいんです」
「……生殺しだ」
低い声で吐き捨てるように呟いて、彼は車を急発進させた。
薄暗い道路を車が荒々しく駆け抜けて行く。
「家じゃなくてホテルに行く。余裕がない」
「構いませんよ」
「嘘だな。あり得ない。だってセントラルからだろう?それとも汽車の中からか?どちらにしろ下着なしでここまで来れる訳がない。君もなかなか変態だから、そんなことをしたら興奮してびしょびしょになって歩けないはずだから絶対に下着をつけているに決まってる」
「ペチコートをはいてますから、多少濡れても平気ですけどね」
早口で持論を展開していた彼が、運転中にも関わらず、横に座る私のことを目を見開いて驚いたように見る。
彼の頬を手の平でぐいと押して、余所見をしないように再び前を向かせる。
「危ないですよ。しっかり前を見てくださいね」
「事故を起こしたら君のせいだからな、痴女の君のせい」
「そういえば、大佐、いつものタイは…」
彼は濃いグレーのジャケットとチェック柄のベストを着ていて、いつもならば彼はそれらの服に黒のタイを好んで合わせるけれど、今日は珍しくモスグリーンのタイを身につけている。
「ん?ああ、ばれたか。だらしないと叱られそうだけど失くしてしまったよ。気に入っていたんだけど」
「そのタイ、私が出張に持って行ったと知ったら怒りますか?クリーニングに出して綺麗にしてから返すので」
「君はどこまでもひどい女だな!」
彼はそう叫ぶと苛立たしくハンドルを殴った。
「ホテルに行く。君のお気に入りの広い風呂があるホテルじゃなくて、安いラブホテルに行くからな」
「あなたと二人きりになれる場所ならどこでもいいですよ」
少し意地悪をして焦らしすぎたかもしれないけれど、その代償にひどく扱われる覚悟はできているし、彼を欲する体は乱暴にされても喜ぶだけだ。
私たち二人を乗せた車はさらに速度を上げて道路を走り、夜の闇に吸い込まれるように消えて行った。




 


「ホークアイ大尉!」
彼女は気づいていないようだけれど、とても優秀でおまけに美人な私の副官は、何もせずにただ立っているだけでも目立つ。
可愛らしい事務の女の子二人が、食堂を出ようとした彼女を呼び止めたために、余計に行き交う者たちの視線を集める。
彼女から死角になる位置に座っていて良かった。
何食わぬ顔で昼食を口にしながら、そっと彼女達の様子を伺う。
「あのっ、今、お時間大丈夫ですか?」
「私たち聞きたいことがあって」
「ええ、平気よ。どうしたの?」
世話焼きな彼女は人に物を教えるのが好きだったりする。
自分自身のことを大切にしないくせに他人にばかり親切にする様子にはやきもきするけど、しかし、憧れのリザ・ホークアイ大尉を前にして緊張している女の子に対し、柔らかく微笑む彼女の姿を見ると胸が和む。
「ホークアイ大尉は何の化粧品を使っていらっしゃるんですか!?」
「え?化粧品?」
彼女は軍人ならではの質問をされると思っていたらしく、少し面食らっている。
「大尉は美人で、おまけに肌がとても綺麗でずっと気になっていたんです!秘訣を教えてください!」
「肌も顔立ちも昔からずっと変わらないって本当ですか!?」
前のめり気味に質問を浴びせる女の子たちに圧倒されたのか、彼女は思わず一歩うしろへ後ず去ろうとしている。
しかし、女の子たちの気持ちはよく分かる。
整った綺麗な顔と童顔は生まれつきだとしても、肌があまりに若すぎるのは私も疑問に思っていて、女性ならばなおさら気になるだろう。
伸ばしていた髪をばっさりと切った彼女は、私の副官になったばかりの時と同じ髪型をしており、時折あの頃の彼女が目の前にいると錯覚してしまうほど、彼女は昔から変わっていない。
「…ええと…まさかそんな風に思われていたなんて知らなかったわ。でも特に秘訣なんてないのよ」
「じゃあお風呂上がりに何をつけてるんですか!?」
「普通の化粧水と乳液よ。…あ、そういえば、前までは安いものを使っていたんだけど、最近は年齢を気にして少し高いものに変えたんだったわ」
「もしかしてそれが秘密…!?」
「何を使ってるんですか!?」
「それが…ごめんなさい。自分で買ったのに名前をすっかり忘れてしまって。最近発売になったもので、ボトルのキャップが薔薇の花の形をしているものなんだけど」
「あっ、それ知ってます!」
「なかなかいい値段しますよねえ」
だから綺麗なのかなあと、女の子たちが納得したように頷く。
たまに息苦しくなるほど生真面目で潔癖な彼女が、まさか嘘をつくとは思わなかった。
自分で買った?
あれは私が君のために買ってきたやつじゃないか。
「新発売のものをチェックするなんて、さすが大尉ですね!」
「常に流行を追いかけるのも秘訣ですか?」
「いいえ、流行は特に気にしてないわ。…保湿効果がすごいっていう宣伝に惹かれて買ったの。それだけ」
違うじゃないか。
そろそろ年齢を気にしてそれなりのものを使いたいと彼女が悩んでいたから、店員にお薦めを聞いて、保湿効果に加えて容器が可愛いからと選んで買ってきたのは、私だ。
年下の可愛い女の子たちに嘘をつくなんて、いけない上司だ。
しかし、女の子たちに合わせて適当に作り話をすればいいものを、律儀にところどころに真実を織り交ぜて話す彼女の姿は面白い。
「ほかに秘密はあるんですか?」
「秘密はないけれど、ここに泊まり込む時なんかは備え付けのものを使っていてろくに手入れができないから、家にいる時くらいはと思って、化粧水をたっぷり塗り込んでいるくらいかしら。…付けすぎなんじゃないかって言われそうなくらい」
「なるほど、惜しみなく使うのが大事なんですね」
実際に彼女は「付けすぎじゃないか」と言われている。
もちろん私に。
職場で、それも人がたくさんいる場所で、真昼間から、彼女に憧れる女の子に対して、恋人の言動を自分のものとして話すなんて、君はなかなか悪い女らしい。
「私は効果よりも、香りが気に入ったものを使うようにしているわ。お風呂でマッサージをする時にいい香りがするとリラックスできるの」
女の子たちのペースに乗せられてこれ以上嘘をつくのはまずいと思ったらしい彼女は、ボディソープやファンデーションなど、愛用しているものの商品名を一通り教えてしまう。
そういえば、本を読むのに夢中で寝食を忘れ、当然風呂に入るのも面倒臭がる私をバスルームに無理やり押し込み、彼女が髪も体も洗ってくれたことがあった。
不健康だと怒る彼女に髪を洗ってもらっていると、温かな湯船や彼女の指の動きが心地よくてだんだんと眠くなってきて、それから空腹を思い出して、「風呂っていいな」と呟いたのだけれど、それ以来、彼女はシャンプーもボディソープも変えていない気がする。
もしかしたら私のためなのだろうか。
今度聞いてみよう。
二人で風呂に入ってお互いの体を洗いあっている時に泡まみれの胸に指を食い込ませて「最高の泡立ちじゃないか」と笑う私の顔や、ブラウスのボタンを外すと香ってくる石鹸と彼女の甘い匂いを嗅ぐ私の様子を彼女は思い出しているはずで、しかし何でもないような顔で話す姿には少し興奮を覚える。
「流行に流されずに、自分の好きなものを使うのが一番なんですね」
「私、今日から大尉を目指して頑張ります!」
「あなた達はまだ若いし、それに十分可愛いからあまり化粧品に頼る必要なんてないと思うけど。私があなた達に可愛らしさの秘訣を聞きたいくらいよ」
彼女の言葉を聞いた女の子二人の頬が、燃え上がりそうなほど赤く染まる。
「よく甘い台詞を恥ずかしげもなく言えますね」なんて私に対して彼女はよく呆れているけれど、こういうことを計算もせずに自然に言えてしまう彼女だって手に負えない。
女の子達は首まで赤く染め、まるで今にも泣きそうな表情で照れていて、女性にあんな顔をさせるなんて、私にだってなかなか難しい。
女の子達は何度も頭を下げて礼を言いつつも、まるで逃げるように去って行き、その様子を彼女は不思議そうに眺めていた。

「昼間は大変そうだったじゃないか」
風呂上がりにたっぷりとつけた化粧水と乳液のおかげで十分に潤っている頬を撫でながらにやにやと笑うと、私に組み敷かれている彼女が不機嫌そうに眉を寄せた。
「……やっぱり見ていたんですね」
「可愛い君たちは嫌でも目立つからね。助け舟を出した方が良かったかな?君が使っている化粧品の名前、全部答えられるぞ」
「もう、やめてください」
「マスタング准将の方が詳しいって、次に聞かれた時に言うといい」
「馬鹿ですか」
彼女は唇を尖らせながら顔を背ける。
女の子達に嘘をついたことを私に知られたのが不満らしい。
「しかし、本当の若さの秘密は言えるはずがないよなあ」
「だって本当にないですから。言えるはずがないですもん」
「あるじゃないか。毎晩、恋人に顔にぶっかけてもらってるからよって、君に言えるはずが……痛いっ!」
「馬鹿じゃないですか!?」
目の前が暗くなるのと同時に頭に何かがぶつかり、思わず片手で押さえる。
どうやら彼女が枕を私の頭にお見舞いしたらしい。
「馬鹿!もう、本当に馬鹿っ!」
素早く私の下から這い出た彼女は、枕を握ったまま顔を赤くして私を馬鹿だの変態だのと罵倒する。
「私なりに考えた結果、あれが君の奇跡的な若さの秘密だと思ったんだけど…。割と本気で」
「そんな訳ないじゃないですかっ!」
「だって顔に掛けて塗りたくって遊んだ次の日、君の顔はつるつるじゃないか!胸と太ももでもしっかり確認したから間違いない!」
「なんの関係もありません!」
彼女はまるで逆毛を立てる猫のように目を釣り上がらせて怒っていて、先ほどまでの口付けて触れ合っていた甘い雰囲気はすっかり消えてしまった。
きっと彼女はもう今夜は私に抱かれる気はないだろう。
女の子たちに嘘をついたものの、彼女は基本的には真面目で潔癖で、何年付き合っていても、恋人同士のいやらしい戯れを嫌う。
怒りと恥ずかしさで頬を赤く染めている彼女をこれからどう服従させようか考えながら、この初々しさこそ若さの秘密なのかもしれないと思った。




 






 






 







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