パラレル/R-18
マスタングが喋ることができない設定なので苦手な方は注意してください



鷹を守る黒い犬の話



膝よりやや長めの深緑色のプリーツスカートを冷たい秋風に靡かせ、彼女は一人で石畳のレンガの上を歩いていた。
写真で見た通りの美少女だと思う。
黒のハイネックのセーターの下の膨らみは十六という年の割には大きくて、この後服を引き裂いて好きにできることを考えると思わず口の端が上がる。
肩に掛かるほどの長さの豊かな金髪も、スカートとお揃いの色をしたカチューシャも、手入れされた白い肌も爪も、同世代の女性ならば皆羨むに違いない。
家柄、金、そして優しい祖父までいて、彼女は世間が憧れるものをあまりにも持ち過ぎている。
食べるものに困るという悩みを一度も抱いたことのないお嬢様のおこぼれを少しくらい貰ったって罪にはならない。
顔を見た限りでは知的な印象を受けたけれど、莫大な資産を持つ彼女の祖父を狙う輩はたくさんいるというのに、日の落ちてきた公園を無防備にも一人で歩くなんてよほど世間知らずの馬鹿らしい。
「こんばんは」
「…こんばんは」
行く道を塞ぐようにして彼女の前に姿を現わすと、彼女は紅茶色の瞳でちらりと私を見て、さして驚いた様子も見せずに足を止めた。
「こんな時間にお嬢さん一人で出歩くなんて感心しないな。何をしていたのかな?」
「犬の散歩です」
「犬?」
彼女は手にリードらしきものなど持っていないし、そもそも犬の姿などどこにも見当たらない。
確か彼女が犬を飼っているという情報もなかったはずだ。
年頃の割にパーティーやお喋りが苦手で、屋敷に篭ってばかりの風変わりな娘だと聞いていたけれど、相当におかしな女なのだろうか。
それとも恐怖のあまり変なことを口走っているのだろうか。
しかし、その割に、彼女を取り囲むかのように数人の男が物陰から現れても彼女は声ひとつ上げずに相変わらず涼しい顔をしている。
「さすがに箱入り娘の君でもこの状況は分かるよね?少し私達と一緒に来てくれるかな?」
「ですから、私、犬の散歩中なんです。ですから行けません」
「何を訳の分からないことを…」
彼女の腕を強引に掴もうとした瞬間、どこからともなく黒い影が現れ、目の前が真っ赤に染まった。



「ロイ、待て!もう、待てって言ってるのに!」
屋敷に戻ってお爺様に報告を済ませ、部屋に戻り扉を閉めた途端に抱き締めてきたロイを叱る。
いくら両手で胸を押し返そうとしても日々鍛えているロイに敵うはずがない。
きつく腕を回された体は痛いし、それに最近ロイは「待て」をめっきり聞いてくれなくなってきていて、深くため息をつく。
「ロイの馬鹿。いつもやりすぎるんだから。お爺様に半殺しで止めろっていつも言われているでしょ?お爺様に嘘の報告する身にもなってよね」
ロイをきつく睨むと彼もまた苛立たしそうに目を細める。
ロイは訳あって小さな頃から話す事ができないけれど、言葉を交わさなくても顔を見れば彼の言いたいことは大体分かる。
「そんなに見てた?減るもんじゃないし、別にいいけどなあ…」
先程の男達が私の体をじろじろと舐めるかのように見ていたことがロイは気にくわないらしく、さらに私が気に留めていないことが彼の怒りに拍車を掛けるようだ。
「私の体であれこれ妄想されるの嫌?」
仏頂面でロイが頷く。
「ロイだって私でいっぱい妄想するし実際に変なことするでしょ。それはいいの?」
当然だというように自信たっぷりにロイが頷くから思わず笑ってしまう。
ロイの黒い瞳は宝石のように綺麗で、そして大抵のことに興味がなさそうな冷やかな目をしているけど、実は彼は独占欲が強い。
誰かが私に触ろうとしただけで噛み付かんばかりに敵意を剥き出しにするから手を焼くけれど、それがロイの可愛いところでもある。
「素直なロイにいいことしてあげる」
ズボンのベルトを外して緩んだ隙間から下着の中に手を差し入れると、これから起こることに期待を隠せていない興奮気味な視線が痛いほどに降りかかる。
「でもね、これも躾だから」
セーターをめくり上げて胸に触ろうとしたロイの悪戯な手をすかさず叩く。
「最近ロイは『待て』が出来てないから、もう一度訓練するからね。私がいいって言うまで私に触っちゃ駄目。いい子にしてないとイかせてあげないから」
服の上からロイの逞しい胸に舌を這わせながら、刺激を受けた分だけ素直に硬くなる手の平の中のものを握りこむ。
行き場を失った手をきつく握り締め、一方的に攻められるだけになったロイは許しを乞うように切なげな目を私に向ける。
この目は、あんなに強いひとが、私のように弱い女に見せるものではない。
力で私を跳ね除けるなんて先程の男達を倒すよりずっと簡単なはずなのに、大人しく動かないままで甘い責め苦に耐えるロイの姿を見る度に背中がぞくりと疼いて、この遊びはなかなかやめられそうにない。



「待て」の訓練を無事に終えて、好きに動いていいと許可を出した辺りからあまり記憶が定かではない。
指先が白くなるほどきつくシーツを掴んで耐え難い快楽に耐えていたはずの体は、気付けば今はロイの膝の上にある。
「ロイ、ちょっと休憩したい…じゃないと体が壊れそう…」
両親を殺した相手に復讐するために小さな頃から血が滲むような努力を重ね、今も自分を追い込むまで体を鍛えているロイの体力に、屋敷の中で本ばかり読んでいる私の貧弱な体がついて行けるはずがない。
ロイは渋々と私を貫かんばかりの激しい律動を止めて、ぐったりと胸に寄り掛かる汗まみれの体を労わるように、優しく背中を撫でてくれる。
「ロイ、いい子」
なんとか腕に力を入れて汗で乱れた黒髪を撫でると、ロイは顎を私の肩に乗せて嬉しそうに頬ずりをするから、まるで本当の犬のようだと思う。
「ちょっとやりすぎだったけど…私を守ってくれてありがとう。よく出来ました」
誇らしげに笑うロイを見て愛おしさが込み上げるのと同時に胸が苦しくなる。
ロイが私の犬になったのはただの成り行きで、彼は体が強くて頭の回転も速く、おまけに容姿も悪くないから、私のボディーガードなんてしなくても別の生き方はいくらだってある。
今日のように誘拐されそうになることはよくある話で、大事なロイをもう危険な目に会わせたくないという気持ちも強い。
ロイが幸せになるためならばいつでも手放す覚悟はできているはずなのに、ふとした瞬間に寂しくて堪らなくなって、このまま私の元に置いておきたくなってしまう。
両親の復讐を遂げるまで私にも手助けをさせて、なんてもっともらしい理由をつけて、もうしばらくロイの首輪を外してあげられそうにない私は悪い飼い主だ。






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